2016年5月26日木曜日

イギリス国民投票


えらい長くブログの更新が滞ってしまっていた。特に何があったわけではないけれども、最初の1ヶ月くらい張り切りすぎて5月病のようになっていたのかもしれない。まあ、これからはゆっくり更新していこうかと。ブログの更新間隔にご注意を(mind the gap!)

と、うまいことを言った気になって上で、本題の EU referendum、つまりイギリスがEUを離脱するかどうかの国民投票である。このイギリスの歴史を左右する国民投票がある6/23日まで1か月を切っていよいよ、という所である。日本のニュースでもさすがに最近、報道が増えてきていることだろう。昨日の日経新聞の記事で、この国民投票に向けたキャンペーンが進む中で、ブックメーカー(要は賭け事屋)をやっている企業が儲かっている、というものがあった。つまり終盤に入っても、残留派・離脱派が接戦を繰り広げている、ということだ。

(日経新聞)英EU離脱投票、一部企業では特需も 郵便事業や賭け業者
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO02788890W6A520C1FF2000/
(依然取り上げたウィリアム・ヒルが記事中で取り上げられている)


まあ、両陣営の主張など小難しい主張は、探せば日本語でもいい解説記事があるので、以下では肩の力を抜いて自分なりの視点で紹介していきたい。

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おそらく日本では知らない人もいると思うので、両陣営のボスを紹介。

まず、残留派陣営のボスは、現英国首相のキャメロン首相である。
「(拙訳)本日は、(英国残留キャンペーンを行っている)StrongerInを訪ねることができてよかった。英国は、(英国の要望を受けて改革された)EUに残留することで、より強く、安全で、豊かな国になれるのだ」

アメリカのオバマ大統領や、安倍首相からも「残留が望ましい」という言葉を引き出して、首相としてのポジションを最大限に活用している感じである。ちょうど今は、サミットで志摩にいると思うが、G7でも何らかの言及があるだろう。


対する離脱派陣営のボスは、2008年からこの5月までロンドン市長を務めたボリス・ジョンソン代議士である。

「(拙訳)[BBCニュース]『6月24日(投票日の翌日)はイギリスの独立記念日になる!』」

日本では、ボリス・ジョンソン氏はあまり知られていないと思うが、イギリスの未来の首相候補とも目される、重要な政治家の一人である。ロンドン市長といえば、日本でいえば東京都知事のようなものかもしれないが、こちらではロンドン市長であると同時に国会議員であることもでき、国政の大物政治家への登竜門的な位置づけのようだ。それに、少なくともここ最近の東京都知事のようにお金に汚い感じもなくさっぱりしたものだ(美術品が好きな某都知事と違って、ボリス・ジョンソン氏の好きなものはアイスクリームなので、あまりお金がかからないのかもしれない)。


(ボリス・ジョンソン氏の好物はアイスクリームのようだ)


残留・離脱両陣営は、ここ数ヶ月火花を散らし続けているので、この二人、さぞかし仲が悪いだろう、と思うかもしれないが、実は二人とも保守党の議員であり、5月のロンドン市長選では保守党の立候補者を仲良く応援していた(その保守党の候補者は負けてしまったが…)。

(左から ボリス・ジョンソン氏、ザック・ゴールドスミス氏(市長選候補者)、キャメロン首相)


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EU離脱を巡っては、様々な論点で論争が進められている。もちろん、主要な論点はEUとの貿易や移民、規制の統一化といったところだが、安全保障や外資系企業の誘致といったところも重要な論点として挙がっている。
ただし、このように上がった論点のほぼすべてで、EU離脱は少なくとも短期的にはイギリスにとってマイナスに働くだろう。EUという相手とチームで頑張って取り組んできたところから抜け出すといっているので、まあこれは当然である。キャメロン首相陣営は、この短期的なマイナスがものすごく大きい(試算によると年間1世帯当たり70万円くらいらしい)し、長い間影響が残る、と主張して残留への投票を増やそうとしている。

至極説得力のある話だ。では、一方でなぜ離脱派がこんなにも勢いを持っているのか?移民・難民を嫌っている人が多い、という排他的な話を持ち出す人もいるかもしれない。確かに、そういう人が一定数いるのはそうだろうが、そのように排他的な主張のみではここまでの勢いを維持するのは難しいだろう。
両陣営の論戦を聞いた上での個人的なまとめとでは、残留派の主張を簡単に言えば、「EUのみんなと一緒に頑張った方がいろいろはかどって良い」ということだが、離脱派の主張は「EUの頑張り方はおかしいから、離れて自分で自分に合ったやり方で頑張った方がいいんじゃないか?」ということなのだろう。確かに、EUは頑張っているかもしれないが、南欧の債務危機対応や難民問題対応の行方を見る限り、EUの取り組み方が最も迅速かつ効果的、と言い切れないのはやむを得ないのかもしれない。今後も、どんな経済・安全保障・人道上の危機がヨーロッパを襲うかわからない中で、本当にEUの枠の中で主権を制限されていていいのか?というのが離脱派の根底を流れているのが、この国民投票を悩ましく、そして面白いものにしているのだろう。

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ただ、ここへきてまだよくわからないのは、EUやドイツに対するイギリス人の反感のようなものがどれだけ影響を与えているか、だ。ボリス・ジョンソンは先週、

「ヨーロッパの歴史とは、栄光と繁栄のローマ帝国を再現しようと試みてきた歴史だ。ただ、ナポレオンやヒトラーやほかの例を見ても分かるように、それらは悲劇的な結末を迎えた。今のEUは、こうした試みを別の形で行おうとしているだけだ」

と、EUをヒトラーになぞらえる演説をして炎上してしまった。この発言は軽率だったのだろうが、イギリス人の大陸欧州、特にドイツに対する感情、そして上で書いたようなEUの苦戦の背景にドイツとEUとの利害の対立があることが、離脱派を下支えしているのだろうとは思うが、どうも得心はいっていない。

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ところで、ボリス・ジョンソンは、よく変な髪型になることで有名だ。

「(拙訳)もし「ドナルド・トランプ大統領」と「ボリス・ジョンソン首相」が風の強い日に会ったらどうなるだろうか。きっと、金髪の大惨事になるだろう!」

http://www.theguardian.com/politics/gallery/2012/jun/08/boris-johnson-bad-hair-pictures
(ガーディアン紙:ボリス・ジョンソンのひどい髪型集)

そのせいか、例のヒトラー発言の後、こちらの政治をテーマにしたクイズ番組 "Have I got news for you" の中で、コメンテーターの一人に「ヘア・ヒトラー」とこき下ろされていたのが印象的だった(ドイツ語でヘア(Herr)はMr の意味だ)。
同じ番組の中で、ボリス・ジョンソンが、EUに払っている負担金(1週間当たり£3億5000、約500億円強)の金額が書かれた小切手を、製鉄所の溶鉱炉で焼くパフォーマンスの場面を紹介していた。
EUに残留していると、大金をどぶに捨てているぞ、というパフォーマンスである。そして、その映像の後で司会が「同じことを今年のマンチェスター・ユナイテッドもやりました」とコメントしたのも相当受けていた(レスター優勝のすぐあとだったこともあって)。

EU離脱問題では、激しい論戦も続いてややピリピリした空気になっているのが残念ではあるが、そうした問題も果敢かつ軽やかに風刺するテレビ番組があるのが、さすがイギリスという所なのだろう。