2016年2月29日月曜日

Leap Year


今日は2月29日だが(日本はもう日付が変わってしまったけど)、今日は何の日だろうか?いくつか挙げてみたいと思う。

1つ目はもちろん、うるう日である。4年に一度のことだし、ブログに2月29日の日付を残そうと思って今この記事を書いているところである。最近は、Facebookがどんどんお節介になっていくので、「今日はうるう日ですが、何をしますか」的なことを聞いてきた。まあ、特別なことはしていない。しいて言えば、うるう日に関するブログ記事を書いているくらいだ。

2つ目だが、イギリスやアイルランドでは2月29日は「女性から男性にプロポーズしてよい日であり、しかも男性は断ってはいけない日」だそうだ。このやや奇妙な伝統には、それにふさわしい怪しげな起源が言われているそうだ。曰く、5世紀に聖パトリック(アイルランドにキリスト教を伝えた聖人)が始めただとか、13世紀にスコットランドのマーガレット女王が、プロポーズを断った男性に罰金を科す法律を定めただとか、諸説入り乱れている。もちろん、これらの言い伝えはおそらく嘘らしく、この伝統は19世紀位から始まったものらしい。

Twitter で、この伝統のことを「イギリスは恐ろしい所だ…」とやや男性目線の感想を添えてつぶやいている人がいた。もちろん、現代人の、しかも草食系の多い日本人男性の感覚としては、まあそう思うのも仕方がないと思う。ただ、こういう風習が現れるのは、少なくともつい最近まで西洋社会が非常に男性優位な社会だったことの表れともいえる。実際、これもどこまで本当の話かは分からないが、うるう日に女性がプロポーズしてもよい理由として、昔の法律はうるう日の扱いに曖昧なところがあって、いわば法律の抜け穴的なタイミングだからだ、という説があるくらいである。

このほか、アメリカでの似たような風習など、うるう日における「ジェンダーの逆転」は色々と広がりがあるトピックの様である。これらの風習について、BBCが面白いクイズを作っていたので、関心がある方は下記のリンクを確認していただきたい。


さて、今日は何の日の3つ目は、「にんにくの日」である。これは、日本でしか通じない語呂合わせなので、もちろんイギリスでは全く関係ないが...ただ、Facebookやtwitterに、筆者の好きなニンニクをふんだんに使ったラーメン屋に関する記述が多く出ていたので、ちょっと里帰りしたくなった、というだけだ。
そういえば、筆者が大学の時に所属していたサークルは、有志が毎月29日に焼肉を食べに行く企画をしていた。そして、普通の年の2月は2月9日に開催していたが、うるう年は2月29日にいつも以上に大々的な企画をしていた。今でも、後輩たちはあの伝統を続けているのだろうか?


2016年2月28日日曜日

ロンドンのパブ・バー(1): Ye Olde Mitre


筆者は、鉄道の路線図や歴史が好きであるが、それと同じくらいかそれ以上にアルコールが好きである。こちらに来て新居も決まって早々したことは、本屋に行ってロンドンのパブを紹介したガイドを手に入れることだった位である。そして、手に入れた本が "Drink London: The 100 Best Bars and Pubs" という本である。こちらにいる間にすべて回れるかはわからないが、できる限り回って、ここで紹介しようと思う。



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第1回目の今回の記事では、Farringdon 駅近くの隠れ家パブ、 "Ye Olde Mitre" を紹介したい。このパブは、下の看板の写真にもある通り、1546年からあるといわれる歴史のあるパブである。ちなみに、この "Ye Olde" という文句はイギリスのパブでは見かける言い回しである。Wikipedia によると、意味的には "the old" と同じだが、中世英語っぽい言い回しで古めかしさを出すために使われる言葉のようだ。蕎麦屋が「○○庵」とつけたがるのと似たような感覚なのかもしれない。

Ye Olde Mitre の案内板。注意深く探さないと見つからない。

東京にも最近では隠れ家レストランと称する店はたくさんあるが、このパブの隠れ家度もなかなかである。下の写真はパブのある路地から出たところで撮ったものだが、入り口がお分かりになるだろうか?おそらく、ガイドなしにここにたどり着くのは至難の業であろう。

街灯のあたりにパブに通じる路地があるが、ほとんどわからない。

さて、この歴史あるパブ、 "Ye Olde Mitre" であるが、1546年の開業当初は、ケンブリッジ州 (Cambridgeshire) イーライのビショップ(高位聖職者)が土地を持っていて、パブの近くに彼のお屋敷があったそうである。その名残からか、店の看板には聖職者の帽子があしらわれているほか、2階の貸し切り用の部屋は "Bishop's room" と名前がついている。
"Drink London: The 100 Best Bars and Pubs" によると、このビショップのお屋敷は、ロンドンのシティで犯罪を犯して逃走中の極悪人たちをかくまった、という伝説があるそうだ。そして、「今でもかくまってくれるか試そうとしない方がいい」との注意書きもあったので、よい子はマネしない方がいいだろう。

パブの看板。ビショップの帽子だと思われる。

2階にはBishop room という貸し切り用の部屋がある。

やや不思議な内装。陶器製のウィスキーボトル?がぶら下がっている。

隠れ家にもかかわらず、金曜の夜は超満員であった。エール・ビールグラスを片手に、中世の聖職者や極悪人に思いをはせると、イギリスの歴史がより身近になるかもしれない。


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Ye Olde Mitre
http://www.yeoldemitreholborn.co.uk/#
最寄り:Farringdon 駅または Chancery Lane 駅
おすすめ:各種エールビール

2016年2月26日金曜日

2016年 イギリス飯マズ論争


こちらに来る前、送別会などで会う人たちから受けた質問で多かったのは、「何しに行くの?」と「何年くらい行くの?」だったが、それと同じくらいに多かった質問(同情?)は「イギリスって飯がまずいんでしょ?」というものだった。それくらいに「イギリス=飯マズ」という印象は定着しているといえる。
個人的には、耳にタコができるほどこの質問を受けてから、期待値を相当下げてこちらに来たので、いままで不満に思ったことはほとんどない。もちろん、気候も食材も違う所だし、当然和食は日本で食べるレベルには至らないが、それ以上に新しい食材を開拓したり、食文化の背景を知るのはとても楽しいことである。いや、今のは強がりです。ほんとはこっちに来て2ヶ月目くらいの時に鉄火丼を食べたときに、おいしさと懐かしさのあまり涙が出そうになったり、「ロンドン 大根」という google 検索を iPad に残していたところを妻に見つかって笑われたりしてます。

何はともあれ、この古典的な「イギリスあるある」であるが、ここ数日 Twitter 上でまた盛り上がっている。おそらく、発信源は次のまとめで取り上げられている tweet なのだと思う。曰く、イギリスに留学した姉が、食べるものすべてがまずくて、オレンジを食べて飢えをしのいでいる、とのこと。

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「全ての食べ物がまずい」「栄養失調寸前」 英国へ留学した姉から届いたLINEが切実で泣きそう http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1602/26/news125.html
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まあ、この記事だけで終われば、よくある話海外こぼれ話で終わるのだが、 twitter の別の場所では、それなりに深刻な論争に発展していたようだ。こちらの論争の発端は、社会学者の北田先生の次の tweet のようだ。


これに対して、 昨年 LSE で PhD を取得して帰国された川口先生が反論をしていた。



ステレオタイプに基づいた民族ジョークはネタにしやすいのは間違いないので、飲み会とかそういった場でのおしゃべりにはもってこいだろう(自分だってそういう場ではすることがある)。それに、こういうステレオタイプなジョークは英語圏の人々も大好きだし、もっとえげつないものもある(英語圏の金髪とポーランド人を馬鹿にするジョークははっきり言って悪質で不快ですらある)。
こういったジョークの発話者が、裏にある差別意識のようなものに自覚的になった上で、仲間内の冗談でこういった話をする分にはまあいいのかもしれない。だが問題なのは、「イギリス飯マズ」的な何気ない話題の時には、無自覚にそういう話をしてしまいがちなことなのだろう。Perfume だって、悪気なく、何気なく話題に選んだだけに違いない。あんなに美しい演奏をできる人達に悪い人がいるわけがないから。
とつらつら書いていたら、王様林先生も同様の意見をつぶやいておられるのを見つけた。

唯一、腐して問題のない話題なのは、やはり「天気」ということだが、「天気」を一番腐しやすい国もイギリスのような気がする。なので、イギリスを腐したいなら、これからは料理よりも天気のことを話した方が安全なのだろう(なお、出国前に「飯まずいんでしょ?」の次に多く受けた同情は、「いつもどんよりしてるんでしょ?」だったことを、この記事を書いているときに思い出した)。

2016年2月25日木曜日

ロンドンの駅(4):King's Cross St. Pancras (後編)


King's Cross St. Pancras 駅の後編では、St. Pancras 駅について取り上げる(前編はこちら)。
名前の由来となったSt. Pancras は、日本語では「聖パンクラティウス」と呼ばれるそうで、4世紀の初頭に殉教した少年だった、とのことだ。大昔、今と比べればロンドンが小さな町だった頃、St. Pancras 駅がある一帯はロンドンの外にある小さな村だった。そして、その小さな村を管轄する教会が St. Pancras 教会と呼ばれていたことから、村自体も St. Pancras と呼ばれるようになったらしい。ただ、歴史好きにとって残念なのは、この教会自体は忘れ去られた存在となってしまい、駅ばっかりが有名になってしまったことだ。

今の St. Pancras 駅は、2007年に大改装されたのだが、正面にはヴィクトリア朝様式の荘厳な時計台とホテルがあり、非常に趣がある。東京駅もそうだが、都市の玄関口である中央駅が素晴らしい建築であるのは、本当に素晴らしいことだと思う。

St. Pancras 駅の時計台(Photograph: courtesy of S.H.)
http://goo.gl/2e5ITK
この St. Pancras 駅は、2007年の大改装以降、パリやブリュッセルとロンドンを結ぶ国際特急 "Euro Star" の発着駅となっている(それまではどの駅だったかについては、いずれ記事にしたい)。そのため、St. Pancras 駅は、いつも大きなキャリーケースを持った旅行者やビジネスマンでにぎわっている。基本的には空路でしか外国とつながっていない日本の感覚ではピンとこないが、ロンドンの町中以上に頻繁に飛び交う大陸欧州系の言葉を聞くにつけ、この鉄道駅は「外国」とつながっているんだな、としみじみ思う。

停車中の Euro Star (筆者撮影)
列車案内の電光掲示板。1時間に1本パリ行きの列車が出る(筆者撮影)

そして、入り口には、駅でしばしの別れを交わしていると思われる恋人の像が立っていて、こちらも旅情を誘う。この銅像は、Paul Day という彫刻家の "Meeting point" という作品の様である。駅構内には、他にも優れた銅像があるので、見て回るのも楽しいかもしれない。ただ、この像を見るたびに、なぜかゴスペラーズの「新大阪」が頭の中で再生されるので、まだまだ自分の心は日本にあるのだな、と思う。

Meeting Point (筆者撮影)

Meeting Point 台座部分のレリーフ。こちらも旅情を誘う。(筆者撮影)



2016年2月23日火曜日

Elizabeth Line


ロンドンでは現在、市内の中心部を横断する新しい地下鉄を建設していている。これだけ成熟した大都市の中心を通す新路線を建設するというのは、ただただ驚きである。もっとも、ロンドンの人口はここ数年で100万人単位で増加しており、東西移動を担う Central line と District line の混雑はすさまじいものがある。2018年に営業開始ということだが、完成が待ち遠しいところである。

Farringdon 駅の Crossrail の看板(筆者撮影)

この新路線に向けて "Crossrail" というプロジェクトが立ち上げられ建設が始まったのは 2009年 のことである。ロンドン市内北西のターミナル駅 Paddington 駅と、ロンドン市内東部のターミナル駅 Liverpool Street 駅をつなぐ区間が新設されるのだが、Bond Street駅, Tottenham Court Road駅, Farringdon駅といった市内中心部を通ることから、なかなか難易度の高いプロジェクトである。最寄りの Farringdon 駅には数台の大型クレーンがあって、このプロジェクトの規模の大きさをうかがうことが出来るだろう。

Farringdon 駅の工事現場(筆者撮影)

さて、この Crossrail の営業開始後の路線名が、この度公表された。その名も、 "Elizabeth line" で、ラインカラーは紫だそうだ。もちろん、エリザベス女王にちなんだ路線名であるが、発表に合わせてラインカラーに合わせた紫一色のいでたちで、女王御自らおいでになるなど、女王もなかなかノリノリである。これで、Victoria line や Jubilee line に続いて、女王陛下にちなんだ路線名が1つ増えることになる。


Elizabeth line が開通すると、Heathrow 空港とロンドン市内を結ぶアクセスが格段に向上するだろう。Paddington駅止まりの National rail が、Farringdon 駅や Liverpool Street 駅まで直結するためである。あまり先の話をしていても鬼が笑うだけだが、いずれ帰国するときは、この Elizabeth line に乗って Heathrow に向かうのかもしれない、と思うと、今から少し感慨深くなるものである。

2016年2月21日日曜日

名前を言ってはいけないあの人(クマ)


イギリスの児童文学といえば、何といってもハリー・ポッターとクマたち(Winnie the Pooh や Paddington bear)であろう。ただ、これらのイギリスのクマたちの話は今後の機会に譲って、今日は最近知ったロシアとクマの話をしたい。

ロシアには、もちろんたくさんクマがいる。そして、かつては列強として脅威をふるったロシア自身をクマになぞらえた風刺画がたくさんあったほどである。ただ、ついさっき知ったのだが、「ロシア語には『クマ』をあらわす単語がない」ようである。いや、もちろんクマを表す単語はあるのだが、やや複雑な事情があるようである。

昔々は、ロシアにもクマを表す単語があったらしいが、どうやらその単語を言ってしまうと、クマが聞きつけて本当にクマが来てしまう、という迷信を昔の人たちは信じていたようだ。そのため、ロシア人はそのクマという単語を使う代わりに、隠語のように「はちみつを食べるもの」という感じで呼びならわしていたようである。つまり、ロシアにおける「名前を言ってはいけないあの人」は、ヴォルデモート卿ではなく、「クマ」であった、というわけだ。そして、元々クマを指していた単語は忘れ去られてしまったようである。なお、現在クマの意味で使われている「はちみつを食べるもの」は、「メドヴェーチ(Медведь)」という単語だそうだ。つまり、前ロシア大統領だったメドベージェフ大統領の名前は、プーさん(はちみつ好きのクマ)と言えないこともない。そして、今の大統領の名前はもちろんプーチンである。

ところで、このクマを直接呼称することをタブーとする風習は日本にもある。そう、「♪出てきた出てきた山親父~」の山親父である(注)。かたや、「はちみつを食べるもの」、かたや「山の親父」なので、日本における扱いの悪さが気になるところである。ただ、小学校の山登り遠足がクマ出没のために中止になった記憶のある自分としては、まあ相応の扱いではないか、とも思っている。

(注)おそらく、北海道以外の多くの人には元ネタがわからないと思われるので、参考動画をあげておきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=o6AvdUxSqBw


2016年2月16日火曜日

ロンドンの駅(3):King's Cross St. Pancras (前編)


今回の、ロンドンの駅は King's Cross St. Pancras (キングスクロス・セントパンクラス)である。とても長い駅名だが、これは地下鉄の駅名であって、地上には National Rail の King's Cross 駅と St. Pancras 駅が並んである。両駅は長距離鉄道のターミナル駅なだけあって、乗り入れている地下鉄もなんと6路線という、大きな駅である(とはいっても、新宿駅や渋谷駅に比べれば、全く大したことはないのだけれど…)

今回の記事では、前編ということで King's Cross 駅について取り上げたい。King's Cross 駅はロンドン中心部の北側に位置しており、イングランド北部(ヨークシャー地方)やスコットランドなどを結ぶ長距離列車が発着する、いわばロンドンの北の玄関口である(つまり、上野駅のようなものか)。

King's Cross 駅南側 (Wikipedia より)

King's Cross 駅が開業したのは 1852年のことだが、その少し前、1830年から1845年の間に、この地区に、ジョージ4世(位:1820-30)の大きな銅像が立っていたことから King's Cross という地区名になったそうである。この銅像、15年で取り壊されたことからも分かるように、相当不評だったらしく、当時の作家である Walter Thornbury は "absurd statue" と酷評している。
では、銅像が建てられる前は、この地区は何と呼ばれていたのかというと、"Battle bridge" と呼ばれていたそうである。なんでも、西暦60年ごろに、ローマ帝国に反乱を起こしたケルトの女王 Boudica が、この辺りにあった橋でローマ軍と激突したそうである。Boudica はイギリスではかなり有名な歴史上の人物らしいので、機会があればそのうち記事にしたいと思う。

さて、日本人にとっては、King's Cross 駅は「9と4分の3番線」があるところで有名だろう。実際に、King's Cross 駅には、「9と4分の3番線」を再現したスポットがあって、記念写真を撮る観光客で長蛇の列ができていた。この観光名所、なかなかサービスがよくて、グリフィンドール・カラーのマフラーの貸し出しがあるうえに、専属の係りの人がついていて、シャッタチャンスに合わせて、マフラーをふわっと、してくれる。ハリーポッターファンには、大満足のサービスなのではないだろうか。

「9と4分の3番線」 筆者撮影

この「9と4分の3番線」だが、やや見つけづらい場所にあるので注意が必要である。というのも、King's Cross 駅には、駅舎が2つあって、1つ目の駅舎には1番線から9番線があり、10番線以降は2つ目の駅舎にある。つまり、実際の King's Cross 駅には、9番線と10番線の間は存在しないのである!どうやら、J.K. Rowling は、自分の記憶だけを頼りに勘違いで書いてしまったらしい。しかも、後年このことをインタビューで問い詰められたときに「Euston駅と勘違いしていた」と答えたらしいが、Euston駅も9番線と10番線は違う駅舎にあるとのことだ...
こちらに半年近く暮らしてみてわかったのは、このいかにもいい加減な感じが、イギリス人の性質をよく物語っている、ということである。

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「9と4分の3番線」 "Platform 9 3/4"
https://www.kingscross.co.uk/harry-potters-platform-9-34
National Rail, King's Cross 駅構内
所要時間:10~30分程度(写真撮影に並ぶ場合)
おすすめ度:★★★★★(ハリーポッターファン)
                 ★★☆☆(その他)



2016年2月14日日曜日

Butterfly can opener


世の中では、重力波の観測成功に理系の人々が沸いているが、こちらで自分が勉強している経済学は、そうしたり理系の人たちから小ばかにされることが多い。その有名な例として、無人島の小話というものがある。

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ある時、物理学者と化学者と経済学者が乗ったボートが難破して、無人島に流れ着いてしまった。ボートには、食料として缶詰が載せてあったが、缶切りはなくなってしまったようだ。物理学者と化学者は、その専門知識を使って缶詰を開けようと提案した。曰く、
物理学者:あの崖から缶詰を落とせば、衝撃で缶が割れるに違いない。
化学者:缶詰を火にかければ、缶が膨張して割れるに違いない。
しかし、この二人の試みはうまくいかなかった。そこで、経済学者がおもむろに提案した。
経済学者:ここに缶切りがあると仮定しよう。
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先日、この春に日本に帰る予定の友人から、こちらでは食べきれないということで、「ほぐしズワイガニの缶詰」をもらった。せっかくなので、レタスと一緒に食べよう、と妻が準備をしていたのだが、我が家には缶切りがなかった。経済学研究者の卵として、「そこに缶切りがあると仮定すればいいじゃないか」と提案したのだが、返事すらしてもらえなかった(妻には上の小話を何度か話しているためだろう)。

ということで、今日は地元の小さなホームセンターに行って、缶切りを買ってきた。ただ、ケチって一番安い缶切りを買った缶切りが、日本では見かけないタイプのものであったため、使い方わからずかなり手こずってしまった。缶切りがあるのに缶詰を開けられないとしたら、無人島で役に立たない経済学者どころの話ではない。必死でネット検索して開け方を調べて、何とかほぐしズワイガニにありつくことが出来た。

Butterfly can opener (Photograph: courtesy of S.H.)

この缶切りは、 "Butterfly can opener" というタイプの缶切りらしく、手前の黒い部分の先端を缶に突き刺して、左側のねじ部分を回しながら缶を開けていく。最初は、どの部分が缶に刺さるのかわからずに戸惑ってしまったが、わかってしまえばなんてことはないものだ。ネットで開け方を調べているときに、同様の悩みを持っている海外在住日本人がかなりいることがわかったので、備忘録として使い方を説明した動画リンクを置いておこうと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=JndRNsQLEQ0





2016年2月12日金曜日

Lady Godiva


今週のスピーキングのクラスでは、様々な「見る」に関する内容だった。 "glance" が「ちらっと見る」とか "gaze" が「じっとみつめる」とか、その手の動詞が10個ぐらい紹介された。いかにも、大学受験とかGRE的な内容なのだが、 一つだけ印象に残ったのが、"peep" という動詞とあわせて、 "peeping Tom" という熟語が紹介されたことだ。"peep" は、「のぞき見をする」という意味なので、この熟語は、「のぞき見をする気持ち悪い人」という意味である。一体、トムが何をしたっていうんだ、ひどい言われようじゃないか。

そんな話はさておき、そろそろ、バレンタインデーである。日本のチョコレート祭りほどではないが、こちらも「大切な人に花を贈りましょう」とか、「おいしいお菓子とシャンパンはいかがですか」という感じでスーパーが頑張っている。日本では、「欧米ではバレンタインデーだからといって大騒ぎしない。日本人は企業に踊らされているだけだ」という人がたまにいるが、何のことはない、どこの国でも小売業者は、消費者の購買意欲を掻き立てようと必死なのである。

さて、日本でもおなじみの高級チョコレート、Godiva はこちらでも有名である(ただし、英語ではゴダイヴァと発音する)。Godiva はベルギーの会社であるが、ブランド名の由来は、11世紀のイングランドにいたとされる女性 (Lady Godiva) である。ゴディバ・チョコのロゴに描かれている馬に乗った女性、その人である。
この、 Lady Godiva は、Mercia 伯 Leofric の妻ということで、要は中世のお殿様の奥さんである。この、 Mercia では領民が重税にあえいでいて、領民思いの Godiva は、Leofric に領民のことを考えて税金を引き下げてほしい、と訴えたそうである。それに対して、 Leofric は「おまえが裸で馬に乗って町中を一周するなら税金を引き下げる」といったそうである。そして、Lady Godiva は、この Leofric の無茶苦茶な要求を本当に実行してしまい、領民を救ったそうである(この伝説にちなんで、ゴディバのロゴも馬に乗った裸の女性である)。

Lady Godiva: 裸で馬にまたがっている
(Wikipediaより)

Lady Godiva が裸で町中を通っている時、恩義を感じた領民は、家の中に閉じこもり、彼女を見ないようにしたそうだ。その中でただ一人、Tom という男だけが、彼女の裸見たさに窓からのぞき見したとのことである。そう、この伝説が "peeping Tom" の由来である。
ただ、この Tom という名前は、アングロサクソン系にはない名前で、ノルマン征服以前の時代である Lady Godiva の時代のイングランドにはない名前らしい。つまり、 peeping Tom の伝説は、後世の作り話であることが濃厚とのことだ。濡れ衣だったのか、やっぱりかわいそうだよ、トム。それに、一番の変態はどう考えたって Leofric じゃないか。


2016年2月10日水曜日

ウスターソース


今日は、趣向を変えてイギリスの調味料の話をしてみようと思う。取り上げるのは、 日本でもおなじみの「ウスターソース」である。この、ウスターソース、イギリスでは "Worcestershire source" と呼ばれている。"Worcester" は、このつづりで「ウスター」と発音する。なぜ、そのような発音になるのか、というのはやや長い話になるので "Leicester square" 駅の記事を書くときにまとめて説明しようと思う。"shire" は、日本でいう県にあたるような行政区画を指す言葉なので、"Worcestershire source" は「ウスター県のソース」くらいの意味になる。

イギリスの定番ウスターソース "Lea and Perrins"
(Photograph: Courtesy of S.H.)

Worcestershire は、調べたところによるとロンドンの北西に車で3時間くらい、バーミンガムの南の方に位置している。鳥取県くらいの広さで、人口は10万人程度、一番の名産品はウスターソース、という、まあのどかな地方である。「首都から車で3時間くらい」の「のどかな地方」で作られた「全国的に有名」な「発酵調味料」ということなので、イギリスの信州味噌、と思うことにしている。

さて、本家本元のウスターソースであるが、日本のものに比べてかなりさらさらしている。そして、あまり甘みが強くない分、ビネガーの酸味と玉ねぎの辛みが強調されている。これを、ローストビーフや蒸し野菜に賭けると、それだけで十分においしい夕食となる(この感想が、イギリスの食事に毒されている証拠では、という指摘は却下する)。日本のウスターソースが、なぜ本場に比べて甘くどろっとしてしまったのかはわからないが、カレー同様、日本の食事に合わせて進化を遂げた事例といえるだろう(確かに、トンカツには日本のウスターソースの方が合うと思う)。

最後にどうでもいい話だが、この記事を書くために調べものをしているときに、漫画家の「うすた京介」は、もともとはウスターソースからとった「うすた宗介」という名前を使っていたが、誤植がそのまま定着してしまったということを知った。「すごいよマサルさん」とともに子供時代を過ごした身としては、なかなか驚きのエピソードである。


2016年2月8日月曜日

London Transport Museum


ブログのタイトルをロンドンの地下鉄にあやかってつけたこともあって、先週末は"London Transport Museum" を訪れてみた。この博物館は、ロンドンの地下鉄を運営している "TfL (Transport for London)" の博物館で、主役はもちろん地下鉄なのだが、TfLが運営または関係する様々な交通機関(有名な二階建てバスや、ロンドン市内を走るタクシーも)の展示を見ることができる。博物館のエントランスには、ロンドンだけではなく世界各地の地下鉄路線図をあしらったデザインが施されていて、中でも東京の路線図がよく目立っていた(エントランスの自動扉が開いた瞬間、目に入る「上野御徒町」の文字はなかなかインパクトがある)。




エントランスには、路線図と一緒に気の利いた言葉が並んでいた(日本語でいれば、「つなげよう日本」とか「昨日のすごいを、あしたのふつうに」的な言葉である)。その中で、特に目を引いたのは、 "Transport is the lifeblood of the city" (交通は都市の原動力である)との、決め言葉。これだけ情報化が進んだ社会でも、人の集積がビジネスや商業的、文化的活動に決定的な役割を果たしているのは間違いなくて、効率的な交通インフラがその原動力なのは、疑いようがない。中でも、地下空間を利用するという究極に効率的なインフラである地下鉄と、その膨大な建設・維持費を賄ってしまう交通需要は、大都市の証しといえるだろう。そう考えれば、地下鉄の満員電車に乗って消耗することにも、少しは誇りのようなものを感じられる気がする。



ミュージアム・ショップでは、 London underground の関連グッズがこれでもか、と売られていた。有名な駅名をあしらったプレートなどが並ぶ中で、本ブログのタイトルである "mind the gap" のマグネットも売られていたので購入しておいた。現地人も、この言葉は意外と気に入っているようである。その他に、このブログのネタ帳として、 "Tube Trivia" と "What's in a name?" なる地下鉄トリビア本を購入した。これらの本と自分の足を使って、「ロンドン地下鉄界のタモリ」を目指して、これからも精進していきたいと思う。



***
London Transport Museum: ロンドン交通博物館
http://www.ltmuseum.co.uk/
Piccadilly line, Covent Garden駅 徒歩すぐ
料金、大人 16£、学生 13.5£(ネット事前予約の場合、1年間有効)
見学所要時間:60~90分
おすすめ度:★★★★★(家族連れ・鉄オタ)
        ★★★☆☆(その他)


2016年2月6日土曜日

ロンドンの駅(2):Piccadilly Circus


Piccadilly Circus は、ロンドンの中心部、ソーホーと呼ばれる繁華街の中心的な駅の一つである。地下鉄駅を出ると、目に入る大きな広場と電光掲示板がランドマークとなっている。ロンドン在住の日本人にとって Piccadilly Circus は、よく訪れること駅の一つに違いない。というのも、Japan Centre と呼ばれるロンドン最大の日本食材・日本製品のお店があるからである(少年ジャンプや海苔巻き用の簀巻きまで手に入る)。その他にも、ラーメン屋や日本の文房具を売っている店、果てはカラオケ屋まであるので、まさに日本人のオアシスといえる一角である。

Piccadilly Circus: 中央左に見えるのがエロス像 (画像はWikipediaより)

さて、このPiccadilly Circus、駅名に Circus と入っているが、別にこの駅で降りても、曲芸師や玉乗りをしている象を見かけることはできない。この、"Circus" という言葉は、"Circle" の古い言い方で、大きな道路の交わる広場、という程度の意味らしい。確かに、Piccadilly circus の広場からは、もう一つの有名な商業地区である Oxford circus に繋がる大通りや、Trafalgar 広場に繋がる大通りが出ている。そして、広場の中心では、サーカスの象を見ることはできないが、代わりに「エロスの像」を見ることが出来るので、安心して観光に来てほしい。

では、Piccadilly という言葉の語源は何だろうか。個人的には、銀座や新宿にある映画館が語源だと思っていたが、もっと古い歴史があるようである。
調べたところによると、昔この辺りには、"Piccadill" と呼ばれる「襟」を売る有名な職人がいたらしい。この襟は一時期、たいそう売れたらしく、その職人は築き上げた富でこのあたりの土地を買うことが出来たようである(中でも、Piccadilly hall という建物が、ひと際有名になったらしい)。では、この Piccadill とはどんな襟なのか?Wikipedia を調べてみたが、「大きく広めで、カットワークで装飾された襟で、16~17世紀にはやった」とあるが、この説明だけではわかりづらい。そこで、画像検索すると、下のような写真が出てくる。

エリザベス1世とPiccadill
(画像はWikipediaより)
ああ、こういうやつ世界史の教科書でよく見かけたけど、これ、ピカデリーの語源なんだ。確かにこの時代の人、みんなこれ着けてたみたいだし、それはそれは儲かったんだろうなぁ。言ってみれば、ユニクロがはやって、「ヒートテック広場」とでも名前がついてしまったようなもの、と思うと、やや滑稽な話である(ちなみに、ユニクロは Piccadilly circus に店を出していて、ここで買い物をしている現地人をよく見かける)。


2016年2月5日金曜日

William Hill


最近受けていた授業で確率論の話になった。その時に、先生が「君が William Hill に行って賭け事をしたとして…」というたとえ話を連発していた。William Hillは、イギリスで最も有名な場外賭博業者で、町中いたるところで看板を見かける。だから、授業でたとえ話に使われるのも、うなずける。ただ、この William Hill、雰囲気がよくて、おしゃれなカフェが立ち並ぶような通りにも普通に店を出していて、こっちに来たばかりの時はぎょっとすることもしばしあった。

William Hill の店舗。この中で、スポーツくじや
オンライン・カジノができる(Wikipediaより)
さすがに中に入ったことはないが、どうやら toto みたいにサッカーの試合結果に賭けることができたり、店内に設置されたオンライン・ポーカーで賭け事をしたりできるようである。超小型のWINSとぱちんこ屋の複合店が町中あちこちにある、というような感じで、ずいぶんと日本とは様子が違うと言える。ただ、くたびれたジャンパーを着て、スポーツ新聞と思しき新聞を見ているおじさんたちがたくさんいるのは、こちらでもあまり変わらないようである。

調べてみたところ、この William Hill は賭博事業者に似つかわしく、波乱万丈の歴史を経てきたようである。1989年には同じく賭博業者の Brent Walker 社に買収されたものの、この Brent Walker 社は、不正取引の廉で英国当局の捜査を受けた上、1997年に倒産してしまったようである。ここで、William Hill を買収して、Brent Walker 倒産の影響から救ったのが、野村證券だったというのが何とも面白いところである。1997年といえば、日本は金融危機真っただ中だったが、こんな仕事を手がけていたとは…(その後、野村はすぐに売却。2002年にロンドン証券取引所に上場)。

ところで、野村證券の話を調べてるときに、「ウィリアムヒル 野村」で google 検索してみたところ、「ウィリアムヒルでNPB(日本プロ野球)の賭けを!…(中略)…野村監督のもとで成長を見せる広島カープ…」という宣伝ページが引っかかった。そっちの野村じゃないし、もう緒方に代わっているし、長いこと優勝できていない。結局、カープファンである自分の傷口に塩を塗られる結果になったので、この話はそろそろ終わりにしようと思う。

2016年2月4日木曜日

Caught red-handed


今通っている大学は、ありがたいことに留学生向けに英語の授業を提供している。中でも、スピーキングのクラスでは、日常会話に役立つ表現を教えてくれるので、なかなか役に立っている。前学期のクラスでは「パブでの会話」と称して、会話表現はもちろん、様々なパブでのマナーを教えてくれたのだが、これは本当に即効性があった。そのうち紹介したいと思う。

今週のクラスは、日常会話表現のうち色を使った表現を紹介する、という趣向だった。"Out of the blue" が、「突然」という意味になるとか、その手の表現である。ちなみに、この "the blue" は青空のことを意味しているとのことで、日本語の「青天の霹靂」と、言葉の成り立ちが全く同じだというのが、何とも面白いところである。青空から突然、雷が鳴ったり、雹か何かが飛んで来たりしたら、みんなびっくりするというのは、洋の東西を問わないということなのだろう。

色々、取り上げられていた熟語の中で、初めて知ったのは、"catch someone red-handed" という表現だった。これで、「(誰かを)現行犯で取り押さえる」という意味になるらしい。何とも不思議な表現なので、調べてみたところ語源には諸説あるようである。
(参考:http://www.phrases.org.uk/meanings/caught-red-handed.html

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1.北アイルランドの神話まで起源がさかのぼるという説。
昔々、北アイルランドのアルスター地方では、ボートで競争して、1着で岸についた者が支配者になる慣習があった。中には、1着になりたいがために、ゴール着岸直前に自分の手を切り落として岸に投げ入れ、勝利を主張することがあった。今でもアルスター地方の旗は、実際に赤い手をあしらっているらしく、なかなか恐ろしい話である。

2.単純に、殺人や密猟をした人の手は、血で汚れてしまっているため。
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その他、授業で紹介されていた表現には "black market" もあった。意味は言うまでもないだろう。ちょうど、この授業が始まる数時間前に、日本では、超有名な元プロ野球選手が、覚せい剤所持の廉で現行犯逮捕されていたため、「これは、熟語をいくつか組み合わせたいい例文が作れるな」と思いながら授業を受けていた(さすがに内輪ネタなのでおとなしくしていたが)。ニュースの続報を見たところ、この元プロ野球選手は、警察の手入れがあったとき、まさに注射器を片手に持っていたそうである。Red-handed ならぬ dirty-handed といったところだろうか。