今回のアイラ旅行の蒸留所巡りは、ボウモア蒸留所からスタートした。ボウモア蒸留所は、滞在先のボウモアホテルから徒歩数分のところで、ボウモア湾に面している。ちなみに、"Bowmore"とは、ゲール語で「大きな湾」という意味らしい。
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工場の白壁に書かれた BOWMORE |
ボウモアは、アイラ島の蒸留所の中で最も古い蒸留所で、1779年の創業らしい。スコットランド全土で見ても、有数の歴史のある蒸留所とのことである。ボウモア蒸留所の特徴は、大麦の発芽工程とピートによる燻製工程というウィスキーづくりの最初の工程をいまだに自前で行っている、数少ない蒸留所であることだ。
シングルモルトウィスキーの製造過程の最初は、大麦をまず発芽させることで、大麦の中に砂糖をたくさん作りだす。その上で、ピートを焚いた煙で燻製して香りをつけて、乾燥させる。だが、これらの工程はとても手間がかかる。大麦を発芽させる際には、水分を大麦に含ませて風通しのよい床に一面敷き詰めることで、発芽を促す。ただ、そのまま放置すると水分で傷んでしまうので、4時間に一度、大麦を混ぜ返す必要があるそうだ。
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一面に敷き詰められた発芽中の大麦 |
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大麦を手に取ると、確かに発芽している |
そのうえで、Kiln と呼ばれる建物で、ピートを焚いた煙でいぶすことで香りをつけるとともに、大麦を乾燥させる。この Kiln は蒸留所の特徴ともいえる下のような建物だ。Kiln の中で、ピートで15時間いぶしたのち、45時間かけて乾燥させるようだ。ちなみに、ピートでいぶす時間の長さによって、ピート臭さが決まってくる。
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Bowmore の Kiln. まだ現役で使われている |
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Kiln の床。下からピートを含んだ煙が上がってくる |
乾燥された大麦は砕かれて grist と呼ばれる粉になる。これを、 "mash tun" という大きな容器に入れて、お湯を注ぐことで、大麦の糖分を含んだ液体を抽出する。この甘い液体は wort と呼ぶそうである。
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Grist bin 大麦が粉砕されて粉になる |
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Mash tun 粉になった大麦にお湯を通して糖分を抽出する |
Wort は常温に冷やされた後、wash back と呼ばれる発酵桶に蓄えられ、イースト菌が投入される。イースト菌が糖分をアルコールに変えることで、ウィスキーのもとが出来上がる。ボウモア蒸留所では、いまだに木製の wash back を使っていて、これもボウモアの香りにつながっているようだ(今では洗浄が容易で耐久性が高いステンレス製が主流)。
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Wash back この桶の中で、発酵によるアルコール生成が行われる。
それぞれの wash back には、歴代オーナーの名前がついているようだ。 |
Wash back で作られたアルコールは、度数8%くらいでビールと同じような状態である(実際、ここまでの製造工程はビールづくりと基本は同じだ)。このアルコールが蒸留されることで、ウィスキーのもととなる。蒸留釜(pot still)は、下の写真の通り銅製だ。 2回の蒸留を行うことで、度数60%強の生まれたばかりのウィスキーが生まれ、これを樽詰めして熟成することでウィスキーになる
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pot still 「大きなヤカンで、アルコールを含む湯気を集める」という説明を、旅行中5回くらい聞いた。 |
工場見学の後は、海の見えるラウンジでテイスティングである。テイスティンググラスがなかなかおしゃれだ。
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見学後は、特製のテイスティンググラスでテイスティング |
さて、このボウモア蒸留所は、おそらくアイラ島の蒸留所の中で、最も日本となじみが深い蒸留所だ。というのも、1994年からサントリーがボウモア蒸留所を所有しているからだ。そのためか、日本語のパンフレットも充実していたし、係りの人も心なしか日本人にやさしいような気がした。
この日、滞在先のボウモアホテルで、ボトルのコレクションを見ていると、Keizo Saji's Cask というボウモアの特別なボトルが目に留まった。このボトルは、1994年の蒸留所買収に先立つこと3年、1991年に、サントリーの故佐治敬三氏がボウモア蒸留所を訪れた際に、佐治氏が樽詰めを行ったウィスキーで作ったボトル、とのことである。この樽(cask)は、女王陛下が樽詰めした樽の隣で保管されていたとのことで、21年の熟成を経て瓶詰され、ボウモア蒸留所の従業員や関係者に感謝の気持ちを込めてプレゼントされたものだそうだ(つまり非売品である)。
アイラ島で最も歴史のある蒸留所をサントリーが所有しているというだけでも誇らしいが、更にこのような日本人的な心づかいのエピソードを知って、より感慨が深まった瞬間だった。
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Keizo Saji's Cask: 非売品の貴重なボトルで、ボウモアホテルに大事に飾ってあった。 |
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