アイラ島蒸留所巡りの二日目は、ラフロイグ蒸留所とブナハーブン蒸留所を回った。その日は日曜でバスが運行していなかったため、タクシーをチャーターして島内を巡った。まずは、午前のラフロイグ蒸留所から。
ラフロイグのウィスキーは、日本ではボウモアと並んで有名なアイラウィスキーなので、名前を聞いたことがある人も多いと思う。ただ、英語のつづりでは "Laphroaig" と書いて、ラフロイグと読む難読地名である。北海道出身の身としては難読地名には親しみを覚えるけど、旅行の計画を立てているときに、何度も google先生にスペルを直されるのがつらいところである。
このラフロイグは、ゲール語由来という以上は定かではないらしいが、「広い入江」といった意味の言葉が変化したといわれている。確かに、ラフロイグの近くにはきれいな入り江があって、たくさんのアザラシを見ることが出来たので、説得力がある話だ。
ラフロイグ蒸留所の名前が書かれた白壁 |
ラフロイグの近くの入江にはたくさんのアザラシがいた (photograph: Courtesy of S.H. http://goo.gl/e6DnJS) |
ラフロイグ蒸留所はボウモアと並んで、フロアモルティング、つまり蒸留所内での発芽・ピート燻製工程を続けている数少ない蒸留所の一つである。ただ、実際にフロアモルティングで作られた大麦は2割だけで、残りの8割は機械化された工場から調達しているとのことだ。ラフロイグは世界的に人気のあるウィスキーなので、そうでもしなければ生産が追い付かないらしい。
フロアモルティング現場 |
アイラ島内ポートエレン地区にある大麦のピート燻製工場。 島内の多くの蒸留所はこの工場から大麦を仕入れている。 |
ラフロイグ蒸留所のツアーには、実際にピートの切り出し作業を半日かけて体験できるコースがあるそうだ。工場見学もそこそこに、長靴に履き替えて近くの泥炭地まで連れて行ってくれるらしく、きっと労働した後のラフロイグは格別の味がするのだろう。
ラフロイグ蒸留所は、2005年からビームの前身である Fortune Brand が所有しており、その流れのまま2014年からは、ビーム・サントリーが所有している。そのためか、サントリーの新浪社長のカスクが展示されていた。ボウモアの Keizo Saji's Cask のように数十年後は、Niinami Cask がつくられるのかもしれない。
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古今東西を問わず、人間に共通の性質を2つあげるとすれば、「出来るだけ税金は払いたくない」ということと、(下戸の人ももちろんいるけど)「酒を飲むのが好き」ということだろう。そして、目ざとい政府はこの人間の性質を知ってか、時代を問わず酒に税金をかける訳である。
ラフロイグは1815年操業だが、100年近くにわたって非合法だった(つまり密造酒を作っていた)とのことだ。ツアーで一緒になった米国人は「100年も密造していたのか!」と仰天していたくらいだ。昔のウィスキー業者が密造しなければいけなかったのは、酒税が超高額だったからだそうだ。しかも、この重税はスコットランドを事実上吸収したイングランドによる搾取の色合いが強かったため、民族対立的な感情も合わさって大きな抵抗につながった。
だが、今のウィスキーがあるのは、重税逃れのためのイノベーションの積み重ねによるものだ。使い古しのオーク樽やシェリー樽で保存するのはカモフラージュためだったし、政府の目を盗んで市場に出さなければいけないので、なかなかタイミングをつかめず自然に長期熟成になったようだし、ウィスキー作りに適した冷涼な渓谷や島は、隠れて悪事をするには最適だ。付け加えれば、こそこそやっている以上、大麦の乾燥にも仕方がなくピートを使うしかなかったようだ。
経済学では、「できるだけ税金は払いたくない」という人間の特性のために、社会的にもったいないことが起きてしまうので、十分注意して税制を設計する必要がある、と主張する。所得税を高くし過ぎると、能力のある人がばかばかしく思ってそこまで働かなくなるとか、軽減税率を導入すると「おもちゃ付お菓子」は「おもちゃなのかお菓子なのか」の議論に、国会の大事な時間が使われるとか、そういう類の話だ。お酒に関しても、日本の酒税には批判が多い。複雑で高額な酒税に対応するために、日本のビール会社は発泡酒や第三のビールの研究開発にお金をかけざるを得ず、ガラパゴス化してしまったと主張するエコノミストが多い。
ただ、税金を払いたくない人間は、必死で抜け道を探すし、その努力がイノベーションにつながることがあるのが、何とも難しいところだ。昔から政府が「経済学」に忠実な税制を取っていたら、きっと今飲んでいるウィスキーはこの世に存在しなかっただろう。もちろん発泡酒や第三のビールも。政府が生み出した非効率がイノベーションを促進する、という「イノベーションのジレンマ」を思いながら、とりわけピート臭いラフロイグを飲み干した。
ピートを人力で切り出すための用具とのこと |
ラフロイグは蒸留釜が6つもある大きな蒸留所だ |
ラフロイグ蒸留所は、2005年からビームの前身である Fortune Brand が所有しており、その流れのまま2014年からは、ビーム・サントリーが所有している。そのためか、サントリーの新浪社長のカスクが展示されていた。ボウモアの Keizo Saji's Cask のように数十年後は、Niinami Cask がつくられるのかもしれない。
ウェアハウス。なんだかおしゃれだ。 |
サントリーの新浪社長のカスクを発見! |
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古今東西を問わず、人間に共通の性質を2つあげるとすれば、「出来るだけ税金は払いたくない」ということと、(下戸の人ももちろんいるけど)「酒を飲むのが好き」ということだろう。そして、目ざとい政府はこの人間の性質を知ってか、時代を問わず酒に税金をかける訳である。
ラフロイグは1815年操業だが、100年近くにわたって非合法だった(つまり密造酒を作っていた)とのことだ。ツアーで一緒になった米国人は「100年も密造していたのか!」と仰天していたくらいだ。昔のウィスキー業者が密造しなければいけなかったのは、酒税が超高額だったからだそうだ。しかも、この重税はスコットランドを事実上吸収したイングランドによる搾取の色合いが強かったため、民族対立的な感情も合わさって大きな抵抗につながった。
だが、今のウィスキーがあるのは、重税逃れのためのイノベーションの積み重ねによるものだ。使い古しのオーク樽やシェリー樽で保存するのはカモフラージュためだったし、政府の目を盗んで市場に出さなければいけないので、なかなかタイミングをつかめず自然に長期熟成になったようだし、ウィスキー作りに適した冷涼な渓谷や島は、隠れて悪事をするには最適だ。付け加えれば、こそこそやっている以上、大麦の乾燥にも仕方がなくピートを使うしかなかったようだ。
経済学では、「できるだけ税金は払いたくない」という人間の特性のために、社会的にもったいないことが起きてしまうので、十分注意して税制を設計する必要がある、と主張する。所得税を高くし過ぎると、能力のある人がばかばかしく思ってそこまで働かなくなるとか、軽減税率を導入すると「おもちゃ付お菓子」は「おもちゃなのかお菓子なのか」の議論に、国会の大事な時間が使われるとか、そういう類の話だ。お酒に関しても、日本の酒税には批判が多い。複雑で高額な酒税に対応するために、日本のビール会社は発泡酒や第三のビールの研究開発にお金をかけざるを得ず、ガラパゴス化してしまったと主張するエコノミストが多い。
ただ、税金を払いたくない人間は、必死で抜け道を探すし、その努力がイノベーションにつながることがあるのが、何とも難しいところだ。昔から政府が「経済学」に忠実な税制を取っていたら、きっと今飲んでいるウィスキーはこの世に存在しなかっただろう。もちろん発泡酒や第三のビールも。政府が生み出した非効率がイノベーションを促進する、という「イノベーションのジレンマ」を思いながら、とりわけピート臭いラフロイグを飲み干した。
1815年創業のラフロイグは、創業200周年を迎えたばかり。 ただ、200年のうち半分ぐらいの期間は非合法だったようだ。 |