2016年6月23日木曜日

いよいよ


ついに、英国のEU離脱を問う国民投票の日となった。長い間、論戦が繰り広げられてきて、ついには悲劇的な犠牲者まで出たが、いよいよ審判の時だ。
BBC News のツイッターアカウントは、夜の11時くらいになると、翌日の朝刊各紙の1面を網羅的にリツイートする。備忘録として、各紙の見出しをリストアップしておこうと思う(拙訳、意訳)。

・Thursday's Guardian(ガーディアン紙)
Last-ditch push to stay in Europe([残留派の]最後の試みは、EU残留へと導くだろう)

・Thursday's Times(タイムズ紙)
Final polls leave Britain’s future on a knife edge
(最終世論調査によると、英国の未来はまだ剣ヶ峰にある)

・Thursday's Daily Telegraph front page(デーリーテレグラフ紙一面)
The time has come(時は来た)

・Thursday's FT(フィナンシャルタイム紙):
Tension mounts in City ahead of historic vote on EU membership
(EUに関する歴史的な国民投票を前に、[金融街]シティの緊張が高まっている)

・Thursday's Independent digital(インデペンデント紙電子版)
The Day of Reckoning(審判の日)
※reckoningには、判断・審判するという意味のほかに、数字を集計する、という意味もあるらしい。非常にうまい言葉の使い方だと思う。

・Thursday's Daily Express(デーリーエクスプレス紙)
Your country needs you Vote Leave today(英国のためにEU離脱に投票する必要がある)

・Thursday's Daily Mail front page(デーリーメール紙一面)
Nailed: four big EU lies(EUの4つの大きなウソ)
 ※やや自信がないが、nailedは、悪事の現場を取り押さえる、という意味のスラングのようだ。

・Thursday's International NY Times(NYタイムズ国際版):
Leaving EU would upend nation, but not overnight
(EU離脱は英国を転覆させるだろう、ただそれは一夜にして起きるものではない)
※離脱派が、EU離脱後の諸々の手続を詰めていないため、長期間にわたって影響が出る、と続く

・Thursday's Sun front page(サン紙一面) 
Independence Day(独立記念日)

・Thursday's Daily Mirror(デーリーミラー紙)
Don't take a leap into the dark… vote REMAIN today
(暗闇に飛び込んではいけない。EU残留に投票せよ)

・Thursday's Daily Star(デーリースター紙)
YOUR country YOUR vote Grab your future by the ballots
(あなたの国、あなたの投票権、未来を投票によってつかみ取れ)

・Thursday's i front page(i紙一面)
On your marks. Get set. VOTE!
(位置について、用意、投票!)

・Thursday's City AM(シティ・AM紙)     
Decision Day (選択の日)

・Thursday's Metro front page(メトロ紙一面)
Britain Decides(英国の選択)


淡々としている新聞、最後まで扇情的な新聞、恐怖をあおる新聞と見事に個性が出ているのが見て取れるだろう。紙面構成・写真からも今のイギリスの雰囲気が伝わると思うので、以下の引用ツイートを眺めていただきたい。

***










































2016年6月9日木曜日

試される大地


こちらで地元の人と知り合いになると、「日本のどこ出身なんだい?」と聞かれることもある。とはいっても真面目に答えたところで、尋ねてきた本人が知っているのは、東京と京都くらい、ということが多くて、北海道といってもピンとこない人の方が多い。自分だって、こっちに来る前は。マンチェスターとかヨークが地図上のどこにあるかなんて絶対に答えられなかったし、まあそんなもんだろうと思っている。ただ、「聞いたことないなあ」といわれ続けるのも、やや物悲しいので、いつからか、「日本の北にある大きな島の、雪深い街の出身です」と答えることにしていた。

今日もたまたま最近知り合いになった人と雑談する機会があって、出身地を聞かれたんだけど、いつもとやや違った展開になった。

イギリス人:「日本のどこ出身なんだい?東京かい?」
私:「東京にも長く住んでたけど、出身は日本の北にある大きくて雪がたくさん降る島です」
イ:「あ、知ってるよ。北海道でしょ?」
私:「そうですよ。北海道、よくご存じですね。」
イ:「そりゃそうだよ。あの行方不明だった少年が無事見つかったところでしょ?クマにさらわれたんじゃないかって、心配していたんだよ。」
私:「…確かに、こっちでもたくさんニュースで取り上げられていてびっくりしました。北海道のクマは凶暴なんで危険なんですよね」

確かに、例の少年の話は、こちらではすごい話題になっていて、退院して「お父さんを許します」という所も含めて続報を続けているようだ。きっと、今日話したイギリス人も北海道のクマが凶暴なことも含めて、ニュースで聞いたのだろう。

BBC: Japanese missing boy Yamato Tanooka found alive in Hokkaido
http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-36441612


しかし、こんなところで北海道のクマの話になるとは思わなかった。思わず、ラーメンズの「住民の半分がクマ」というネタを思い出してしまい、続けて北の国からの五郎の声真似で「試される大地」というシーンも思い出してしまった。確かに、大和君にとっては見つかるまでは試される大地だっただろうし、色々と謝って回らなければいけないお父さんにとっては、今が試される大地だろう。

ともかく、今後は自己紹介をするときには、「ミラクルボーイ、ヤマトが生きて帰ってきた北海道の出身です。もし、遊びに来ることがあったらクマに気を付けてください」ということにしようと思う。

2016年6月7日火曜日

It's all Greek to me (チェコ旅行その1)


この前、ギリシャ人の指導教官とミーティングをしていて、その最中に先生に家族から電話がかかってきたので、ギリシャ語の会話を聞くことに。当然、何をしゃべってるかさっぱりわからなかったので、電話が終わった後に "It's all Greek to me! literally." とコメントしたところ、先生はちょっとにっこり。英語でジョークらしいジョークを言えたのは、これが初めてなので、多少は進歩を感じた瞬間だった。

この、"It's all Greek to me" は、ご存じの人も多いと思いますが、「ちんぷんかんぷんだよ」という英語の表現ですが、最初にこの表現を使い始めたイギリスの人の気持ちも分かる気がしたところ。と、書いたところで、ちょっと調べてみたら、この表現の由来はラテン語の直訳らしいですが、細かいことはきにしない。

で、この手の慣用表現は、多くの言語にあるらしく、twitterで面白い画像を見つけたので引用。


この図を見ると、いくつか興味深い点があって、一つは線をたどっていくとだいたい中国語になる、ということだろう。まあ、他の文字圏の人からしたら漢字は難しいわな。そして、日本語からは矢印が出ていない、つまり日本語には似たような表現がない、ということも興味深い。これは、日本人はだいたいどんな言語でもわかってしまうということなのか、逆に(特定のわからない言語が際立たないくらいに)外国語全般が苦手ということなのか…いろいろ興味は尽きない。


***

先日の記事でもにおわした通り、妻がドイツでイギリスの在留カード(BRP)を財布ごとすられてしまったので、再入国ビザが発行されるまで、待機場所のチェコはプラハまで行ってきた。観光スポットの話は、次回以降に譲るとして、今回はチェコ語の話でも。

滞在中に、最低限旅行用のチェコ語の表現を調べようとネットを見ていたところ、実はチェコ語は日本人にとって習得が相当難しい外国語、との認識なようだ。

何が難しいのかというと、まず文法が難しい。英語なら、主格・所有格・目的格(I, my, meってやつですね)位ですが、チェコ語は、主格・属格・与格・対格・呼格・前置格・造格の7種類あるらしい(当然どう使い分けるのかは全く分からない)。あと、名詞の性別も、英語にはないしフランス語なら男性・女性だけだけど、チェコ語には男性活動体・同不活動体・女性・中性の4種類あるらしい。男性名詞を活動するかしないかで分けるというのは果たしてどういう意図なのか…

そして、発音も難しいらしい。日本語のように必ず音節に母音が含まれる言葉をしゃべっていると、子音ばっかり続く単語の発音はうまくできない。英語にしてみても、"crisps" の語尾をネイティブっぽく発音するのは難しい。そこへ来てチェコ語はさらに凶悪である。wikipediaからの引用をご覧いただきたい。

チェコ語の音韻論も多くの外国語話者にとって非常に難しいものであろう。例えば、zmrzl, ztvrdl, scvrnkl, čtvrthrstのように母音を持たないように見える語もある。しかし、子音である l や r が自鳴音として機能し、母音の役割を担っているのである。
「子音である l や r が自鳴音として機能し…」のくだりは、もはや意味が分からない。これは、妻から教えてもらったけど、外務省のチェコ語専門の人は、"zmrzlina"(ズムルズリナ):アイスクリーム、という単語がお店で通じたときに、上達を感じた、というエピソードを紹介していた。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/staff/challenge/int06.html

そもそも、一つの子音そのものの発音が難しい者もあるらしい。中でも、"ř"という子音は、wikipediaによれば、世界一発音が難しい子音といわれることもあるようだ。どれくらい難しいかというと、チェコ人の子供も発音できない子がいるらしく、特訓のクラスがある位だそうだ。
ちなみに、どういう音かというと、音楽家「ドボルジャーク」の「ルジャ」のところにあたる子音で、実際には「る」の音と「じゃ」を同時に発音するような感じらしい(間違っているかもしれないし、そもそも当然自分では発音できない)。

***

チェコ語がこんなに複雑な文法・発音となっている背景には、チェコの悲しい歴史的背景があるようだ。チェコは長らく神聖ローマ帝国の支配下に置かれていた。つまり、基本的にはチェコ人は長らくドイツ人の支配下に置かれていて、特に三十年戦争以降数世紀にわたって、チェコ語の使用を禁止する政策がとられていたようだ。このような、ドイツ人の抑圧的な政策が、チェコ語を三十年戦争当時の中世的な言語のまま、いわば冷凍保存する形になった結果が、今の他の欧州言語に比べて難しいチェコ語につながっているようだ。

言葉は使っていると、「不便」なところはそぎ落とされていく。日本語の「ら抜き言葉」にしてもそうだし、英語でも、最近では舌を噛んで発音する "th" の発音を、舌をかまずに発音する若者が増えているらしい(と英語の発音のクラスの先生がぼやいていた。うちの息子たちも発音が乱れてるのよ…と)。
現代の感覚では、言語や文化の抑圧は、当然絶対に許されないことだが、チェコ語の豊かな言語的性格とその背景を考えると、歴史と文化のあり方はかくも因果なものだ、と思わずにはいられない。



2016年6月3日金曜日

BRP盗難・紛失時の対応方法


BRPとは、Biometric Residence Permitと呼ばれる、イギリスの在留許可証カードのことで、イギリスに長期滞在する外国人が所持しなければいけないカードのことです。
このカードには、ICチップが埋め込まれていて、Biometric という名前の通り、中に指紋や顔写真などのデータが入っています。2015年より、新規でイギリスの在留を開始する人は、日本でパスポートの貼られるビザ(紙製のもの)は最初の入国1回だけ有効なもので、入国後すぐ、指定された郵便局へBRPカードを受け取りに行く必要があります。ともかく、イギリスに住む外国人がこのカードをなくすと、(その後正式な手続きを踏まなければ)不法滞在になってしまう重要な代物です。

この大事なBRPカードですが、紛失してしまったり盗難にあってしまったりすることもあるでしょう。実際、最近家族がBRPの盗難に(しかもイギリス国外で)あったため、備忘録的に対応方法をまとめたいと思います。
当事者の臨場感あふれるレポートはこちらから

不幸にも似たような状況にあった人の助けになれば不幸中の幸いではありますが、①盗難等の場合は、何よりもまず警察に通報すること、②ビザ申請の手順やルールは、仕組みが頻繁に変わるので、自身で最新の情報を入手すること、を心がけてください。

さて、BRP盗難・紛失時の対応方法ですが、無くなった場所がイギリス国内か国外かで大きく異なります。

1.イギリス国内で盗難・紛失にあった場合
・警察等に通報の上、BRPカードの再発行手続きを、「3か月以内に」行う。

2.イギリス国外で盗難・紛失にあった場合
・警察棟に通報の上、イギリス再入国のための一時ビザの発給を、国外最寄りの英国ビザセンターで受ける
・再入国後、「1か月以内に」、BRPカードの再発行手続きを行う

※手続きを決められた期間の間に行わない場合は、数十万円単位の罰金や、ビザの更新拒否、最悪の場合は国外退去といった処分を受ける可能性があります。

イギリス国外で失くした場合は、イギリスに戻るための一時ビザの取得工程が加わりますが、イギリス帰国後の作業は、(申請までの期間が1か月と短いことを除けば)国内でなくなった場合と同様です。このため、以下では、イギリス国外でなくなった場合の流れを順に追っていきます。

なお、今回いろいろと調べるのに、一番役に立ったのは Warwick大学のページでした(どことは言いませんが、他の大学では古い情報が掲載されていて余計混乱したところもありました笑)。最終的には、政府のウェブサイト記載の最新の手続きに従う必要がありますが、まずWarwick大のページに目を通すことをお勧めします。
http://www2.warwick.ac.uk/study/international/immigration/current/lostpassportandvisas/

1.旅行前の準備

イギリス国外でBRPをなくした場合は、一時帰国ビザを国外で申請する必要がありますが、この申請の際には、日本で最初にイギリスのビザを取得した時に使った書類一式のほとんどが必要になる、と思っておいた方がいいです。このため、以下の書類の画像データや、各種番号情報をクラウド等に保存しておくことを推奨します。

  1. BRPカードの画像と、BRPカードの番号(画像が望ましいですが、BRPカード番号がわかれば、再発行手続きが早まると思われます)
  2. 過去10年程度のすべてのパスポートの顔写真ページの画像(日本でビザを申請した時と同様、過去10年分のパスポート情報と渡航歴を、一時ビザ申請の際に改めて入力する必要があります。)
  3. 在学証明書(学生の場合)、勤務先からの所属証明書(駐在の場合)
  4. イギリス国内の住所を確認できる書類2、3点(Council tax の支払い通知、電気ガス水道の支払い通知、賃貸物件の契約書、銀行の取引レポートなどが認められています。学生であれば、在学証明書でもよいと思います)
  5. (参考)旅行保険の証書(BRPとは直接関係ないですが、ヨーロッパの一部の国では旅行者に旅行保険の加入を義務付けています)


2.盗難・紛失にあったらすぐ行うこと


特に盗難の場合は、すぐに現地の警察に通報することです。一通りの事情聴取の後、警察からレポートが渡されるかと思いますが、このレポートは後々の申請手続きに必要になります。紛失の場合も、現地の警察に紛失届を出して、レポートをもらったうえで、ビザ申請を行う必要があります。非英語圏では、英語のレポートを作成してもらうのは難しいと思いますが、「盗難届」や「すり」などの、キーワードの部分だけでも、手書きで英語のメモをしてもらうように頼むと確実かと思います。

警察の対応や、BRP以外にクレジットカード等も被害にあった場合は、それらの対応を行ったうえで、イギリスのビザ当局に紛失届を提出する必要があります。下記のリンクから、指示に従って氏名・生年月日等を報告する必要があります。
https://www.gov.uk/biometric-residence-permits/lost-stolen-damaged

ちなみに、日本大使館や英国大使館に行っても、ビザ申請関係のことには関知しないとのことで、あまり意味がありません。もちろん、パスポートも合わせて紛失してしまったり、財布ごと盗難にあって無一文で身動きが取れなくなってしまった場合は、日本大使館で必要な支援を受ける必要があるでしょう。

3.ビザ申請を行う場所について

上記の初期対応が一通りの終わったところで、再入国用の一時ビザの申請手続きに移ります。ただし、申請から実際にビザを入手するまでには、最速でも10日程度時間がかかります(今回のケースでは、金曜の午後に盗難、同じ日のうちにビザ面接予約まで行って、翌水曜に面接、最終的にビザが手に入ったのはさらに1週間後の水曜でした)。

その後の旅行の行程や、同行者の事情、滞在地の治安などを踏まえて、①被害にあった都市にとどまった方がよいか、②近隣の大都市に移動した方がよいか、③思い切って日本に帰国した方がよいか、などを慎重に検討したうえで、ビザセンターの面接予約に進んでください。

4.Replacement BRP visa の申請

再入国用のビザは、"replacement BRP visa" と呼ばれるもので、パスポートに張り付けられる紙製のビザ、になります。なお、イギリス再入国後に再発行してもらうBRPカードは、"replacement BRP"と呼ばれており、"visa" がつくかつかないかの違いがある訳ですが、非常に紛らわしいので、政府のページを読む際には注意しながら読んでください。

Replacement BRP visa は、下記のサイトから申請を行います。基本的には、日本で最初にビザを申請する際のページと同じです。
https://www.visa4uk.fco.gov.uk/home/welcome

申請するビザの種類などは、次のように指定します。
Reason for visit: Other
Visa type: Others
Visa Sub type: Replacement Biometric Residence Permit


必要情報を入力すると、次にビザセンターの面接予約に移ります。面接を行う国を決めてしまうと、後から変更ができないらしいので、上にもある通り、その後の予定をしっかりと考えた上で面接場所を指定してください。

面接場所が決まったら、面接センターのページに移って、各種の情報登録やプレミアムサービスの購入などを必要に応じて行います。欧州の多くの国では、ビザセンターの業務は、TLS contact と呼ばれる業者に委託されているようです(ちなみに、日本の業務はVFS globalという別の業者が行っています)。
https://uk.tlscontact.com/

プレミアムサービスには、プライオリティ・サービスというものがあって、優先的に審査してもらえるサービスとなります。これをつけないと、ビザ発給まで面接から1~2週間ですが、つけた場合は通常5営業日以内になります。サービス料の出費は痛いですが、延長滞在費なども考えると、プライオリティ・サービスはつけること一択かと思います。

ちなみに、パリやベルリンのような大都市はわかりませんが、小さな都市ではビザセンターも小さく、東京のセンターのように、ビザ発給後、再びビザセンターに受け取りに行く、ということはできないようです。ビザ面接時に、パスポートを返却する住所を指定して、そこに配達業者が届ける、という形になります。頼れる知人がいるようなケースを除いて、ホテルの住所を指定する必要があると思いますので、この辺りも事前に見通しておいてください。

5.イギリス帰国後(またはイギリス国内で失くした場合)

※今回の自身のケースには該当しないので詳しくは調べていませんが、BRPの期間が残りわずか(1~2ヶ月)の場合は対応方法が異なるらしいので、注意が必要です。

イギリス帰国後は、BRPカードの再発行申請を行う必要があります。イギリス国外のケースとは違って、下記のリンクにある30ページ近くに及ぶ申請書類を記入したうえで、郵送、またはプレミアムサービスセンターの面接を予約する形になります。

https://www.gov.uk/government/publications/application-for-a-replacement-biometric-residence-permit-brprc

ただ、当然のことながらこの申請書類は作成が大変です。注意書きも不親切なところが多いです。そこで、役に立ったのが、Warwick大学のページでした。申請料金等、一部情報の古い部分がありますが、記入例を示してくれているので、留学生に限らずかなり役立つと思います。

http://www2.warwick.ac.uk/study/international/immigration/current/lostpassportandvisas/brp_rc__form_sample_jan_2016_final.pdf


郵送の場合は、上記書類を作成の上、申請書類に示された宛先に郵送します。その後のフローは、私はよく把握していませんが、どうもいろいろと呼んでいると、郵便局で指紋や写真を撮って送るように、という指示が後ほど来るようです。申請からBRPカードの入手までは、8~10週間程度かかるそうです。

一方で、プレミアム・サービス・センターを予約すると、その場で書類を確認しながら面接し、指紋や顔写真もその場でとり、カードの入手までかかる時間も2週間程度とのことです。ただ、問題なのはこのセンターの使用量はとても高い(500ポンド!)、イギリス全土に7か所しかなくて、どうやらロンドン近郊のセンターは日本人は使えないらしいこと、です。500ポンドの追加料金を払って、更に(ロンドン在住の場合、近場では)バーミンガムやリヴァプール、カーディフまで行く必要がありますが、再発行までの間は、別の国外旅行には行けないので、背に腹は代えられない場合も多いと思います。

6.かかる費用と時間のまとめ


(再入国ビザ:Replacement BRP visa)

・申請手数料:現地通貨で189ポンド相当+一部センターではセンター使用料が50ポンド相当程度
・プレミアムサービス料:EU諸国の場合は、200ユーロ程度
・プレミアムサービス利用時で、面接から5営業日以内、利用しない場合は1~2週間程度

(BRPカードの再発行:Replacement BRP)
・申請手数料:56ポンド
・プレミアムセンター利用料:500ポンド
・郵送の場合、郵便局での指紋採取等の手数料:40ポンドくらい?
・警察レポートの翻訳料(非英語圏の場合)
 2ページのレポート、ドイツ語→英語で80£程度が相場のようです
・郵送の場合、8~10週間程度。プレミアムセンターの場合、2週間程度


2016年5月26日木曜日

イギリス国民投票


えらい長くブログの更新が滞ってしまっていた。特に何があったわけではないけれども、最初の1ヶ月くらい張り切りすぎて5月病のようになっていたのかもしれない。まあ、これからはゆっくり更新していこうかと。ブログの更新間隔にご注意を(mind the gap!)

と、うまいことを言った気になって上で、本題の EU referendum、つまりイギリスがEUを離脱するかどうかの国民投票である。このイギリスの歴史を左右する国民投票がある6/23日まで1か月を切っていよいよ、という所である。日本のニュースでもさすがに最近、報道が増えてきていることだろう。昨日の日経新聞の記事で、この国民投票に向けたキャンペーンが進む中で、ブックメーカー(要は賭け事屋)をやっている企業が儲かっている、というものがあった。つまり終盤に入っても、残留派・離脱派が接戦を繰り広げている、ということだ。

(日経新聞)英EU離脱投票、一部企業では特需も 郵便事業や賭け業者
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO02788890W6A520C1FF2000/
(依然取り上げたウィリアム・ヒルが記事中で取り上げられている)


まあ、両陣営の主張など小難しい主張は、探せば日本語でもいい解説記事があるので、以下では肩の力を抜いて自分なりの視点で紹介していきたい。

***
おそらく日本では知らない人もいると思うので、両陣営のボスを紹介。

まず、残留派陣営のボスは、現英国首相のキャメロン首相である。
「(拙訳)本日は、(英国残留キャンペーンを行っている)StrongerInを訪ねることができてよかった。英国は、(英国の要望を受けて改革された)EUに残留することで、より強く、安全で、豊かな国になれるのだ」

アメリカのオバマ大統領や、安倍首相からも「残留が望ましい」という言葉を引き出して、首相としてのポジションを最大限に活用している感じである。ちょうど今は、サミットで志摩にいると思うが、G7でも何らかの言及があるだろう。


対する離脱派陣営のボスは、2008年からこの5月までロンドン市長を務めたボリス・ジョンソン代議士である。

「(拙訳)[BBCニュース]『6月24日(投票日の翌日)はイギリスの独立記念日になる!』」

日本では、ボリス・ジョンソン氏はあまり知られていないと思うが、イギリスの未来の首相候補とも目される、重要な政治家の一人である。ロンドン市長といえば、日本でいえば東京都知事のようなものかもしれないが、こちらではロンドン市長であると同時に国会議員であることもでき、国政の大物政治家への登竜門的な位置づけのようだ。それに、少なくともここ最近の東京都知事のようにお金に汚い感じもなくさっぱりしたものだ(美術品が好きな某都知事と違って、ボリス・ジョンソン氏の好きなものはアイスクリームなので、あまりお金がかからないのかもしれない)。


(ボリス・ジョンソン氏の好物はアイスクリームのようだ)


残留・離脱両陣営は、ここ数ヶ月火花を散らし続けているので、この二人、さぞかし仲が悪いだろう、と思うかもしれないが、実は二人とも保守党の議員であり、5月のロンドン市長選では保守党の立候補者を仲良く応援していた(その保守党の候補者は負けてしまったが…)。

(左から ボリス・ジョンソン氏、ザック・ゴールドスミス氏(市長選候補者)、キャメロン首相)


***

EU離脱を巡っては、様々な論点で論争が進められている。もちろん、主要な論点はEUとの貿易や移民、規制の統一化といったところだが、安全保障や外資系企業の誘致といったところも重要な論点として挙がっている。
ただし、このように上がった論点のほぼすべてで、EU離脱は少なくとも短期的にはイギリスにとってマイナスに働くだろう。EUという相手とチームで頑張って取り組んできたところから抜け出すといっているので、まあこれは当然である。キャメロン首相陣営は、この短期的なマイナスがものすごく大きい(試算によると年間1世帯当たり70万円くらいらしい)し、長い間影響が残る、と主張して残留への投票を増やそうとしている。

至極説得力のある話だ。では、一方でなぜ離脱派がこんなにも勢いを持っているのか?移民・難民を嫌っている人が多い、という排他的な話を持ち出す人もいるかもしれない。確かに、そういう人が一定数いるのはそうだろうが、そのように排他的な主張のみではここまでの勢いを維持するのは難しいだろう。
両陣営の論戦を聞いた上での個人的なまとめとでは、残留派の主張を簡単に言えば、「EUのみんなと一緒に頑張った方がいろいろはかどって良い」ということだが、離脱派の主張は「EUの頑張り方はおかしいから、離れて自分で自分に合ったやり方で頑張った方がいいんじゃないか?」ということなのだろう。確かに、EUは頑張っているかもしれないが、南欧の債務危機対応や難民問題対応の行方を見る限り、EUの取り組み方が最も迅速かつ効果的、と言い切れないのはやむを得ないのかもしれない。今後も、どんな経済・安全保障・人道上の危機がヨーロッパを襲うかわからない中で、本当にEUの枠の中で主権を制限されていていいのか?というのが離脱派の根底を流れているのが、この国民投票を悩ましく、そして面白いものにしているのだろう。

***

ただ、ここへきてまだよくわからないのは、EUやドイツに対するイギリス人の反感のようなものがどれだけ影響を与えているか、だ。ボリス・ジョンソンは先週、

「ヨーロッパの歴史とは、栄光と繁栄のローマ帝国を再現しようと試みてきた歴史だ。ただ、ナポレオンやヒトラーやほかの例を見ても分かるように、それらは悲劇的な結末を迎えた。今のEUは、こうした試みを別の形で行おうとしているだけだ」

と、EUをヒトラーになぞらえる演説をして炎上してしまった。この発言は軽率だったのだろうが、イギリス人の大陸欧州、特にドイツに対する感情、そして上で書いたようなEUの苦戦の背景にドイツとEUとの利害の対立があることが、離脱派を下支えしているのだろうとは思うが、どうも得心はいっていない。

***

ところで、ボリス・ジョンソンは、よく変な髪型になることで有名だ。

「(拙訳)もし「ドナルド・トランプ大統領」と「ボリス・ジョンソン首相」が風の強い日に会ったらどうなるだろうか。きっと、金髪の大惨事になるだろう!」

http://www.theguardian.com/politics/gallery/2012/jun/08/boris-johnson-bad-hair-pictures
(ガーディアン紙:ボリス・ジョンソンのひどい髪型集)

そのせいか、例のヒトラー発言の後、こちらの政治をテーマにしたクイズ番組 "Have I got news for you" の中で、コメンテーターの一人に「ヘア・ヒトラー」とこき下ろされていたのが印象的だった(ドイツ語でヘア(Herr)はMr の意味だ)。
同じ番組の中で、ボリス・ジョンソンが、EUに払っている負担金(1週間当たり£3億5000、約500億円強)の金額が書かれた小切手を、製鉄所の溶鉱炉で焼くパフォーマンスの場面を紹介していた。
EUに残留していると、大金をどぶに捨てているぞ、というパフォーマンスである。そして、その映像の後で司会が「同じことを今年のマンチェスター・ユナイテッドもやりました」とコメントしたのも相当受けていた(レスター優勝のすぐあとだったこともあって)。

EU離脱問題では、激しい論戦も続いてややピリピリした空気になっているのが残念ではあるが、そうした問題も果敢かつ軽やかに風刺するテレビ番組があるのが、さすがイギリスという所なのだろう。


2016年3月19日土曜日

アイラ島旅行記(4):ラフロイグ蒸留所 重税とイノベーションのジレンマ


アイラ島蒸留所巡りの二日目は、ラフロイグ蒸留所とブナハーブン蒸留所を回った。その日は日曜でバスが運行していなかったため、タクシーをチャーターして島内を巡った。まずは、午前のラフロイグ蒸留所から。

ラフロイグのウィスキーは、日本ではボウモアと並んで有名なアイラウィスキーなので、名前を聞いたことがある人も多いと思う。ただ、英語のつづりでは "Laphroaig" と書いて、ラフロイグと読む難読地名である。北海道出身の身としては難読地名には親しみを覚えるけど、旅行の計画を立てているときに、何度も google先生にスペルを直されるのがつらいところである。
このラフロイグは、ゲール語由来という以上は定かではないらしいが、「広い入江」といった意味の言葉が変化したといわれている。確かに、ラフロイグの近くにはきれいな入り江があって、たくさんのアザラシを見ることが出来たので、説得力がある話だ。


ラフロイグ蒸留所の名前が書かれた白壁

ラフロイグの近くの入江にはたくさんのアザラシがいた
(photograph: Courtesy of S.H.  http://goo.gl/e6DnJS

ラフロイグ蒸留所はボウモアと並んで、フロアモルティング、つまり蒸留所内での発芽・ピート燻製工程を続けている数少ない蒸留所の一つである。ただ、実際にフロアモルティングで作られた大麦は2割だけで、残りの8割は機械化された工場から調達しているとのことだ。ラフロイグは世界的に人気のあるウィスキーなので、そうでもしなければ生産が追い付かないらしい。


フロアモルティング現場

アイラ島内ポートエレン地区にある大麦のピート燻製工場。
島内の多くの蒸留所はこの工場から大麦を仕入れている。
ラフロイグのウィスキーは、アイラ島の中でもとりわけピートが強いウィスキーだ。そのためかどうかはわからないが、ピートに島内で一番こだわりを持っていて、いまだに人力で切り出したピートを使っている(その他の蒸留所はすべて機械でピートを切り出している)。下の写真にある専用のスティックのようなものを使って、泥炭地からピートを切り出していくわけで、想像するだけで重労働なことがわかる。ただ、機械で力を加えつつ切り出し圧縮されてしまったピートよりも、手で掘り出したピートはより水分を含み、大麦にピートのにおいを移すのに最適、とのことだ。
ラフロイグ蒸留所のツアーには、実際にピートの切り出し作業を半日かけて体験できるコースがあるそうだ。工場見学もそこそこに、長靴に履き替えて近くの泥炭地まで連れて行ってくれるらしく、きっと労働した後のラフロイグは格別の味がするのだろう。

ピートを人力で切り出すための用具とのこと
 
ラフロイグは蒸留釜が6つもある大きな蒸留所だ

ラフロイグ蒸留所は、2005年からビームの前身である Fortune Brand が所有しており、その流れのまま2014年からは、ビーム・サントリーが所有している。そのためか、サントリーの新浪社長のカスクが展示されていた。ボウモアの Keizo Saji's Cask のように数十年後は、Niinami Cask がつくられるのかもしれない。

ウェアハウス。なんだかおしゃれだ。

サントリーの新浪社長のカスクを発見!

***

古今東西を問わず、人間に共通の性質を2つあげるとすれば、「出来るだけ税金は払いたくない」ということと、(下戸の人ももちろんいるけど)「酒を飲むのが好き」ということだろう。そして、目ざとい政府はこの人間の性質を知ってか、時代を問わず酒に税金をかける訳である。

ラフロイグは1815年操業だが、100年近くにわたって非合法だった(つまり密造酒を作っていた)とのことだ。ツアーで一緒になった米国人は「100年も密造していたのか!」と仰天していたくらいだ。昔のウィスキー業者が密造しなければいけなかったのは、酒税が超高額だったからだそうだ。しかも、この重税はスコットランドを事実上吸収したイングランドによる搾取の色合いが強かったため、民族対立的な感情も合わさって大きな抵抗につながった。
だが、今のウィスキーがあるのは、重税逃れのためのイノベーションの積み重ねによるものだ。使い古しのオーク樽やシェリー樽で保存するのはカモフラージュためだったし、政府の目を盗んで市場に出さなければいけないので、なかなかタイミングをつかめず自然に長期熟成になったようだし、ウィスキー作りに適した冷涼な渓谷や島は、隠れて悪事をするには最適だ。付け加えれば、こそこそやっている以上、大麦の乾燥にも仕方がなくピートを使うしかなかったようだ。

経済学では、「できるだけ税金は払いたくない」という人間の特性のために、社会的にもったいないことが起きてしまうので、十分注意して税制を設計する必要がある、と主張する。所得税を高くし過ぎると、能力のある人がばかばかしく思ってそこまで働かなくなるとか、軽減税率を導入すると「おもちゃ付お菓子」は「おもちゃなのかお菓子なのか」の議論に、国会の大事な時間が使われるとか、そういう類の話だ。お酒に関しても、日本の酒税には批判が多い。複雑で高額な酒税に対応するために、日本のビール会社は発泡酒や第三のビールの研究開発にお金をかけざるを得ず、ガラパゴス化してしまったと主張するエコノミストが多い。

ただ、税金を払いたくない人間は、必死で抜け道を探すし、その努力がイノベーションにつながることがあるのが、何とも難しいところだ。昔から政府が「経済学」に忠実な税制を取っていたら、きっと今飲んでいるウィスキーはこの世に存在しなかっただろう。もちろん発泡酒や第三のビールも。政府が生み出した非効率がイノベーションを促進する、という「イノベーションのジレンマ」を思いながら、とりわけピート臭いラフロイグを飲み干した。

1815年創業のラフロイグは、創業200周年を迎えたばかり。
ただ、200年のうち半分ぐらいの期間は非合法だったようだ。



2016年3月15日火曜日

アイラ島旅行記(3):ブルックラディ蒸留所と設備投資の難しさ


アイラ島旅行で二つ目の蒸留所は、ブルックラディ(Bruichladdich)蒸留所を訪れた。ボウモアのバス停からバスに揺られること30分ほどで、蒸留所前のバス停に到着。ボウモアの湾をぐるっと回りこんできたこともあって、湾の向こうにボウモアの集落が見える。全く英語っぽくない響きからわかる通り、Bruichladdich もゲール語由来の言葉で、「石でごつごつした海岸」といった感じの意味らしい。

蒸留所前から対岸のボウモア地区を望む
近くの桟橋から見た蒸留所。

ブルックラディ蒸留所は、白壁に黒文字で書かれた壁がない代わりに、樽を並べたなかなかかわいらしいモニュメント?があった。樽の地の色や、ビジターセンターの文字などは、すべて緑色に統一されている。この色は、2001年の5月にこの蒸留所が操業を再開した日の、目の前の湾の色だった、とのことだ。1994年に蒸留所がいったん閉まってから、操業再開までの間には、多くの人の大きな努力があったとのことだ。それらの人たちにとって、再操業初日に緑色に美しく染まった湾の景色は、何よりも心に残ったに違いない。

蒸留所入り口で名前をあしらった樽がお出迎え

ブルックラディは、ラディ―(Laddie)という愛称で親しまれている
再操業後、機械をブルックラディ色に塗りなおしたらしい

蒸留所前の海。3月の海は、まだまだ寒々とした青だ

ブルックラディ蒸留所は、アイラ島で2番目に小さい蒸留所で、島内でビン詰めを行っている唯一の蒸留所だ。そのためかはわからないが、色々と独特でとがったラインナップを持っている、という印象だった。例えば、オクトモア(Octomore)というブランドは、"super-heavily peated"と説明がつけられており、ものの話では世界で最もピートが強いウィスキーだそうだ。ウィスキーのピートの強さは、ppmという単位ではかるそうで、ピート臭いアイラウィスキーの代表であるラフロイグでも30~40ppmくらいだが、オクトモアは200ppmを越えるというから、想像しただけでピート臭さが伝わるだろう。糖分を抽出した大麦は、島内の牛や羊のエサになるのだが、牧場主の多くは動物たちが臭くなるから、といってオクトモアに使った大麦カスの引き取りを拒否するらしい。
その他、"Botanist" という名前の、おしゃれなジンも販売していたりと、売店をいくら見ていても飽きないラインナップだった。

ブルックラディで使われる3種類の大麦。右のオクトモア用大麦からは、強烈なピート臭がしてくる。

ブルックラディ蒸留所の特徴は、そのレトロな生産設備にあるだろう。乾燥大麦を粉砕する機械はスコットランド全土を見渡しても珍しい木製のものがいまだに使われている。



木製のレトロな生産設備

そして、大麦にお湯を注いで糖分を抽出する桶である "mash tun" も非常に特徴的だ。この mash tun は、他の蒸留所のものと違って蓋がない(スコットランド全土でも片手で数えられるほどしか残っていないそうだ)。細かい説明を聞き漏らしてしまったが、法律だか規制が変わったか何だかで、ある時代以降の mash tun は必ず蓋がついていなければいけなくなったためだそうだ。ブルックラディは、この mash tun を1881年の操業開始当社から使い続けているそうで、伝統的製造装置にこだわるブルックラディの象徴になっているようだ。

Mash tun を上から撮影。蓋がない(photograph: courtesy of S.H.)
http://goo.gl/NsQJ3J

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シングルモルト・ウィスキーづくりは、他の酒類製造に比べても特に資本力ものをいう分野だ。蒸留設備への投資が必要なのはもちろん、少なくとも10年程度は文字通り在庫を「寝かせる」必要がある。しかも、樽詰めしたときには、それが出荷されるであろう10年以上先の需要動向を予想するのは非常に難しい。それに、もちろん、多額のブランディング費用もかかる。
そのためか、家族経営から出発したアイラの蒸留所も、ほとんどがディアジオやビーム・サントリー、MHLVといった蒸留酒業界の超巨大企業に所有されるに至っている(ブルックラディ自体も、今はレミーマルタンが所有している)。ボウモアにしても、カリラにしても、こうした巨大企業の下で、伝統的製法へのこだわりは一部残しつつも、基本的には製造工程の機械化・IT化を進めている。この流れの中で、雇用が減り、昔ほどとがった製品が出てきづらくなることを残念に思う声もきかれる。

一方で、ブルックラディは、幸か不幸かこのような機械化・合理化の流れから隔たれたところにいたようだ。ツアーガイドのお兄さんによると「20世紀の中ごろ以降、何度も所有者が変わったけど、みんな目先のことしか考えていなくて、設備投資をしようとはだれも思わなかったんだ」と言っていた。もし、その当時、腰の据わった所有者がいて、大々的な設備投資をしていたら、ブルックラディはもっと大きく有名な、でももう少しつまらない蒸留所になって、1990年代の閉鎖を回避できていたのかもしれない。

ともかく、一周回って、伝統的な装置にこだわり続けることが、かえってブルックラディの強みであり面白さになっているのが何とも興味深いところだ。こうした差別化を可能にするくらいに、広がりと深みを持っているところが、さすがアイラ島のウィスキー産業、ということなのだろう。