2016年6月7日火曜日

It's all Greek to me (チェコ旅行その1)


この前、ギリシャ人の指導教官とミーティングをしていて、その最中に先生に家族から電話がかかってきたので、ギリシャ語の会話を聞くことに。当然、何をしゃべってるかさっぱりわからなかったので、電話が終わった後に "It's all Greek to me! literally." とコメントしたところ、先生はちょっとにっこり。英語でジョークらしいジョークを言えたのは、これが初めてなので、多少は進歩を感じた瞬間だった。

この、"It's all Greek to me" は、ご存じの人も多いと思いますが、「ちんぷんかんぷんだよ」という英語の表現ですが、最初にこの表現を使い始めたイギリスの人の気持ちも分かる気がしたところ。と、書いたところで、ちょっと調べてみたら、この表現の由来はラテン語の直訳らしいですが、細かいことはきにしない。

で、この手の慣用表現は、多くの言語にあるらしく、twitterで面白い画像を見つけたので引用。


この図を見ると、いくつか興味深い点があって、一つは線をたどっていくとだいたい中国語になる、ということだろう。まあ、他の文字圏の人からしたら漢字は難しいわな。そして、日本語からは矢印が出ていない、つまり日本語には似たような表現がない、ということも興味深い。これは、日本人はだいたいどんな言語でもわかってしまうということなのか、逆に(特定のわからない言語が際立たないくらいに)外国語全般が苦手ということなのか…いろいろ興味は尽きない。


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先日の記事でもにおわした通り、妻がドイツでイギリスの在留カード(BRP)を財布ごとすられてしまったので、再入国ビザが発行されるまで、待機場所のチェコはプラハまで行ってきた。観光スポットの話は、次回以降に譲るとして、今回はチェコ語の話でも。

滞在中に、最低限旅行用のチェコ語の表現を調べようとネットを見ていたところ、実はチェコ語は日本人にとって習得が相当難しい外国語、との認識なようだ。

何が難しいのかというと、まず文法が難しい。英語なら、主格・所有格・目的格(I, my, meってやつですね)位ですが、チェコ語は、主格・属格・与格・対格・呼格・前置格・造格の7種類あるらしい(当然どう使い分けるのかは全く分からない)。あと、名詞の性別も、英語にはないしフランス語なら男性・女性だけだけど、チェコ語には男性活動体・同不活動体・女性・中性の4種類あるらしい。男性名詞を活動するかしないかで分けるというのは果たしてどういう意図なのか…

そして、発音も難しいらしい。日本語のように必ず音節に母音が含まれる言葉をしゃべっていると、子音ばっかり続く単語の発音はうまくできない。英語にしてみても、"crisps" の語尾をネイティブっぽく発音するのは難しい。そこへ来てチェコ語はさらに凶悪である。wikipediaからの引用をご覧いただきたい。

チェコ語の音韻論も多くの外国語話者にとって非常に難しいものであろう。例えば、zmrzl, ztvrdl, scvrnkl, čtvrthrstのように母音を持たないように見える語もある。しかし、子音である l や r が自鳴音として機能し、母音の役割を担っているのである。
「子音である l や r が自鳴音として機能し…」のくだりは、もはや意味が分からない。これは、妻から教えてもらったけど、外務省のチェコ語専門の人は、"zmrzlina"(ズムルズリナ):アイスクリーム、という単語がお店で通じたときに、上達を感じた、というエピソードを紹介していた。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/staff/challenge/int06.html

そもそも、一つの子音そのものの発音が難しい者もあるらしい。中でも、"ř"という子音は、wikipediaによれば、世界一発音が難しい子音といわれることもあるようだ。どれくらい難しいかというと、チェコ人の子供も発音できない子がいるらしく、特訓のクラスがある位だそうだ。
ちなみに、どういう音かというと、音楽家「ドボルジャーク」の「ルジャ」のところにあたる子音で、実際には「る」の音と「じゃ」を同時に発音するような感じらしい(間違っているかもしれないし、そもそも当然自分では発音できない)。

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チェコ語がこんなに複雑な文法・発音となっている背景には、チェコの悲しい歴史的背景があるようだ。チェコは長らく神聖ローマ帝国の支配下に置かれていた。つまり、基本的にはチェコ人は長らくドイツ人の支配下に置かれていて、特に三十年戦争以降数世紀にわたって、チェコ語の使用を禁止する政策がとられていたようだ。このような、ドイツ人の抑圧的な政策が、チェコ語を三十年戦争当時の中世的な言語のまま、いわば冷凍保存する形になった結果が、今の他の欧州言語に比べて難しいチェコ語につながっているようだ。

言葉は使っていると、「不便」なところはそぎ落とされていく。日本語の「ら抜き言葉」にしてもそうだし、英語でも、最近では舌を噛んで発音する "th" の発音を、舌をかまずに発音する若者が増えているらしい(と英語の発音のクラスの先生がぼやいていた。うちの息子たちも発音が乱れてるのよ…と)。
現代の感覚では、言語や文化の抑圧は、当然絶対に許されないことだが、チェコ語の豊かな言語的性格とその背景を考えると、歴史と文化のあり方はかくも因果なものだ、と思わずにはいられない。



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