今日も世の中はあわただしい一日だった。
最大野党の労働党はコービン党首を追い落とすべく内紛状態にあり、キャメロン首相に「頼むから辞めてくれ」といわれる始末だ。一方で、保守党内でも激しい次期首相候補争いが始まっている。なんだかんだ言われつつ、本命はボリス・ジョンソンなのだが、ABB(Anybody But Boris、ボリス以外の誰か)陣営は、メイ内相でまとまりつつある。また、EU残留をもくろむスコットランド国民党のスタージョン党首がEUの首脳と会談したと思えば、独立志向の強いカタルーニャ地方を抱えるスペインのラホイ(暫定)首相が牽制する。イタリアでは、Brexit後の市場の混乱で銀行経営に対する不安感が高まっておりレンツィ首相は救済を検討しているが、ドイツのショイブレ財務相は安易な救済にくぎを刺している。
イギリス政界の党内事情からEU諸国間の微妙な関係まで、あらゆるレベルでアクの強い役者たちが動いている。これが、100年か200年後に読む、歴史小説の一節ならどれだけよかっただろうと思うが、現実は現実だ。それに、この小説はまだまだ長い続きがあって、結末は誰も知らない。
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あまり、ニュースばかり見ていても詮無いので、久々に美術館に行ってきた。
その美術館では、フィリッピーノ・リッピと呼ばれる、15世紀後半、イタリア・ルネッサンス期の画家の企画展が開催されていた。なかでも、銀筆(silverpoint)と呼ばれる、銀製のとがった筆で特殊なコーティングを施した板に書かれた習作が見ものだった。この銀筆で書かれた絵は、耐久性は高いが、硬い板を固い筆でがりがりやりながら描くものなので、グラデーションをつけたり、複雑な表現をするのは難しかったようだ。それでも、さすがフィリッピーノ・リッピ、非常に緻密で表現力の高い作品が展示されていた。しかし、なんでこんな面倒な技法で習作を書いていたのだろうか。
この銀筆は、紙が工業製品として生産されるようになるまで、画家が習作などを書くときの主要な技法だったようだ。展示の解説によると、イタリアにヨーロッパ初の製紙工場が出来たのが1490年とのことだ。フィリッピーノ・リッピは最後の銀筆世代と言える。リッピより後の世代は、紙に鉛筆を使ってスケッチ・習作を気軽に書くことが出来るようになっていったのだろう。そして、この技術進歩は、画家がどのように修練を積んでいくかに影響を与え、ひいては絵画技法の変化にも大きな影響を与えていっただろう。
紙が工業的に生産されるのはある程度時代が下ってからのこと、というのは、言われてみれば当たり前だ。だが、素人美術ファンがルネッサンス期の絵画をただ見ているだけの時に、この事実を意識するのは難しい。言い換えれば、ルネッサンス期の画家たちが「どのように修業を積んで、どのように作品を作り上げていったか」を、現代人として自分が持っている画家のイメージから切り離して想像するのは、専門家でもなければなかなか難しい。
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Brexitが決まった先週金曜日、面白いツイートを見かけた。
EUからイギリスが離脱でtwitterこんなに騒ぐんだから、日本が国際連盟から脱退した時のtwitterは凄かったんだろうな・・・。— ながにゃん (@neko3214) 2016年6月24日
まあ、ここまであからさまなら、おかしいと気づくので問題はない。ただ、過去の人々の営為を見るときに、上のツイートレベルの勘違いをしていないとも限らない。だから、100年後にいま世界で起きている騒動が歴史小説となったら(おそらくなるだろう)、おかしな解釈の部分もあるだろう。一方で、過去の歴史を振り返るような冷静な目で、目の前で起こっていることを受け止められないのも事実だ。いずれにせよ、世の中が落ち着くまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
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