2016年6月29日水曜日

フィリッピーノ・リッピ展


今日も世の中はあわただしい一日だった。
最大野党の労働党はコービン党首を追い落とすべく内紛状態にあり、キャメロン首相に「頼むから辞めてくれ」といわれる始末だ。一方で、保守党内でも激しい次期首相候補争いが始まっている。なんだかんだ言われつつ、本命はボリス・ジョンソンなのだが、ABB(Anybody But Boris、ボリス以外の誰か)陣営は、メイ内相でまとまりつつある。また、EU残留をもくろむスコットランド国民党のスタージョン党首がEUの首脳と会談したと思えば、独立志向の強いカタルーニャ地方を抱えるスペインのラホイ(暫定)首相が牽制する。イタリアでは、Brexit後の市場の混乱で銀行経営に対する不安感が高まっておりレンツィ首相は救済を検討しているが、ドイツのショイブレ財務相は安易な救済にくぎを刺している。
イギリス政界の党内事情からEU諸国間の微妙な関係まで、あらゆるレベルでアクの強い役者たちが動いている。これが、100年か200年後に読む、歴史小説の一節ならどれだけよかっただろうと思うが、現実は現実だ。それに、この小説はまだまだ長い続きがあって、結末は誰も知らない。

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あまり、ニュースばかり見ていても詮無いので、久々に美術館に行ってきた。
その美術館では、フィリッピーノ・リッピと呼ばれる、15世紀後半、イタリア・ルネッサンス期の画家の企画展が開催されていた。なかでも、銀筆(silverpoint)と呼ばれる、銀製のとがった筆で特殊なコーティングを施した板に書かれた習作が見ものだった。この銀筆で書かれた絵は、耐久性は高いが、硬い板を固い筆でがりがりやりながら描くものなので、グラデーションをつけたり、複雑な表現をするのは難しかったようだ。それでも、さすがフィリッピーノ・リッピ、非常に緻密で表現力の高い作品が展示されていた。しかし、なんでこんな面倒な技法で習作を書いていたのだろうか。

この銀筆は、紙が工業製品として生産されるようになるまで、画家が習作などを書くときの主要な技法だったようだ。展示の解説によると、イタリアにヨーロッパ初の製紙工場が出来たのが1490年とのことだ。フィリッピーノ・リッピは最後の銀筆世代と言える。リッピより後の世代は、紙に鉛筆を使ってスケッチ・習作を気軽に書くことが出来るようになっていったのだろう。そして、この技術進歩は、画家がどのように修練を積んでいくかに影響を与え、ひいては絵画技法の変化にも大きな影響を与えていっただろう。

紙が工業的に生産されるのはある程度時代が下ってからのこと、というのは、言われてみれば当たり前だ。だが、素人美術ファンがルネッサンス期の絵画をただ見ているだけの時に、この事実を意識するのは難しい。言い換えれば、ルネッサンス期の画家たちが「どのように修業を積んで、どのように作品を作り上げていったか」を、現代人として自分が持っている画家のイメージから切り離して想像するのは、専門家でもなければなかなか難しい。

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Brexitが決まった先週金曜日、面白いツイートを見かけた。



まあ、ここまであからさまなら、おかしいと気づくので問題はない。ただ、過去の人々の営為を見るときに、上のツイートレベルの勘違いをしていないとも限らない。だから、100年後にいま世界で起きている騒動が歴史小説となったら(おそらくなるだろう)、おかしな解釈の部分もあるだろう。一方で、過去の歴史を振り返るような冷静な目で、目の前で起こっていることを受け止められないのも事実だ。いずれにせよ、世の中が落ち着くまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。

2016年6月25日土曜日

続き(1)


(承前)

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ネット記事やSNSを眺めている限り、特に日本語で書かれた論評では、英国のEU離脱について「愚かなことをしてくれた」という評価が大半を占めている。なぜ愚かな決断だと思うかは、それらの論評を見る限り、次の2つにまとめられるだろう。

1.経済合理性のない判断だから
2.ヨーロッパの統合・人の移動の自由という、リベラルな考え方を逆転させる判断だから


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経済的な面から言えば、英国経済全体としてみれば、短期的にも長期的にも打撃を受けることがほぼ確実だ。これは、残留派が英国財務省の試算で見せていたことだし、イングランド銀行やIMFなども共通して示していることだ。もう少し、ブレークダウンすると、下記の点が具体的な経済下押し圧力といわれることが多い。

・EUの単一市場から抜けることで、貿易のコストがかかる(関税がかかる、輸出入の手続きが煩雑化する)、非関税障壁が高まる(EUと英国で法制度が異なると、対応コストが高まる等)。ただし、この点がどうなるかは、今後EUとどのような貿易協定を結ぶか次第だ。
・英国の主要産業・金融業について、金融センターとしてのロンドン・シティの求心力が弱まる。すでに、JPモルガンやHSBCなどが、フランクフルトやパリへの人員移転の検討に入っているようだ。だが、こうした移転の動きが実際にどのタイミングで、どのくらいの規模で起きるかについては、「ほとんどない」、から「破滅的な影響」、まで幅広いコメントがあり、意見の一致が見られていない。
・急激なポンド安により、輸入物価インフレが起き、国内消費が低迷する。これはおそらく早晩起きるだろう。少なくとも、今年のイギリス人の地中海へのバカンスは2~3割は高くつくことが確定してしまっている。
・一つだけ確実なのは、以上で上げた点が、どれだけ影響を与えるのか見通せないこと。そして、この不確実性が経済活動を委縮させることだ。

残留派は、これらの要因の影響がそれぞれ大きく、1世帯当たり数十万円以上のコストだ!と運動を展開してきたが、功を奏さなかった。

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上でふれた経済的悪影響の内容には全く異論がないし、残留/離脱を判断する際に必ず考慮しなければいけない点であることにも異論はない。実際、自分に投票権があったとしたら、この経済的観点だけで残留に投票していただろう。
ただ、多くの論評で忘れられている点が少なくとも2つあることには違和感がある。その二つとは、(1)経済的問題だけで投票行動が決まる訳ではないし、決めるべきでもないこと、(2)経済合理性の尺度として人々の念頭にあるものが、基本的にはGDPに代表されるような集計値だ、という自覚がないことだ。もしくは、GDPレベルで成長するなら、再配分を通して低所得層も得をできる、という仮定を暗黙にしていることだ。

(1)経済的問題以外の要因は、「リベラルな考え方の逆転」という論点とも絡むので、後に回す。ここでは、経済合理性の尺度について書きたい。

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個々人の投票者は、基本的には自分の利害を念頭に投票する。言い換えれば、個々人の投票者が比較するのは、残留/離脱時のGDPの違いではなく、自分自身が受けられそうな便益の違いなのだ。極論でいえば、「国全体がどうかは知ったこっちゃない。自分の食い扶持の方がよっぽど大事だ」と考える人々がいることはおかしなことではないし、そういう人たちが、近視眼的で扇情的な活動に影響される傾向が強そうだ、ということも同意する。そういう人たちによるノイズを減らすために、間接民主主義が発達し、官僚・専門家集団による行政の運営が発達したのだろうが、narrow minded な人間の意見はあらゆる面で無視するべき、というのは民主主義の否定だ。

だから、「離脱したらGDPがものすごく減る」、といったところで、「移民のせいで自分は割を食った」、「グローバル化した世の中のせいで自分は生き辛くなった」と思っている人々には、はっきり言って刺さらないだろう。もっとも、こういう人たちに対しては「自分では割を食った感じるかもしれないが、EU加盟で英国経済は豊かになっており、君たちも色々な再配分を受けられて、結果的にはプラスだった」との反論が出てくる。成長すれば多少格差が広がっても、トリクルダウンがあるのだ、という考え方だ。離脱によって、むしろしわ寄せが離脱派によることはもちろん大いにあり得る。だが、説得的にEU残留によるトリクルダウンをアピールできなかった点で、残留派が離脱派に示すべきものを示せなかった、ということではないだろうか。重要な再配分政策の一つである公営医療の現場で、「移民のせいでいつも病院が混んでいる」という実感を持っている人たち取ってはなおさら、残留派の試算は響かなかっただろう。その点、EUに主権が制限されている、という離脱派の主張は、再配分のやり方までEU官僚にがんじがらめにされている、という印象に結びつきやすく、非常に効果的だったのだろう。

4月にとあるシンポジウムで、ある経済学者による、EU離脱の経済的コストの試算に関するセミナーを聞いた。彼女は、「EU離脱は移民による労働力の柔軟な移動・調整を阻害し、労働市場を非効率にする。そして、このコストはGDP比で見ると非常に大きい」という説明をしていた。この主張は正し過ぎるほど、正しい。だが、こういうロジックに基づいた経済的試算で離脱派を説得しようとするのは無理があるのではないか、と同時に不安になった。まさか、その時の不安が現実のものになるとは、その時には思わなかったが、思い返せば4月頃から残留側が経済的コストを強調し始めたころから雰囲気がおかしくなってきたことに今気づいて愕然としている。

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イギリスに限らず、アメリカでも大陸欧州でも、そして日本でも、「グローバル化で割を食っている」という層が台頭してきている。これだけ、様々な政治体制・経済政策をとる国が共通した問題に直面している中で、「移民のせいじゃない、EUに残った方がいい。グローバル化の流れは悪くない」という命題が「動かない真実」だ、離脱派は「わからずやの愚か者だ」、と言い切るだけの、理論的・学術的証拠を自分は持ち合わせていない。むしろ、この命題の答えは、これからの世界が多いな代償を払いつつ決めることなのだろうと思うと、引き続き暗い気持ちになる。

「中間層が困窮している原因はEUにある訳ではない。EUに問題をすり替えるボリス・ジョンソンやナイジェル・ファラージュは稀代の詐欺師だ。離脱派は騙された愚か者たちだ」。今日も、ニュースやSNSをこういった言葉が埋め尽くした。こうした指摘は大きな真実を含んでいるだろうが、一方でEUが原因でないとすれば、他に中間層をリスクの高い選択肢に走らせた原因がある、というだけだ(ジョンソンやファラージュは、あくまで現象であって原因ではないと思う)。強い言葉は発する人も害する。強い言葉を投げつけるべき、本当の原因が何なのか整理がついていない自分にとっては、今日も気持ちをやさぐれされる一日だった。

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もちろん、離脱派の「これまで割を食ってきたから離脱」という判断にも問題はある。人間の限られた判断力では、意思決定が過去の経験に大きく影響されてしまうのはやむを得ないとはいえ、本当に大事なのは「将来どうやっていけばハッピーになれるのか」だ。難しい言葉でいえば、こういう意思決定はフォワード・ルッキングであるべきなのだ。だから、キャメロン首相は危険な賭けでEUを揺さぶって、将来を改善させようとしたのだろう。
EU離脱が人々を不安にさせているのは、離脱派の政治家たち、そして英国の議会政治が、この厄介な英国の将来をハンドルするだけのビジョンと能力を持っているかに、深い不信があるからだろう。もちろん、ヒビを入れられたEU諸国側の対処能力にも大きな不安がある(だからこそ、イギリス以上に大陸欧州の株価が下がったのだろう)。だからこそ、すでに、離脱に投票したことを後悔している人たちが多数出てきているようだ。そして、スコットランドやロンドンは、こんな奴らとはやっていけないと公然に主張し始めている。それでも、腹をくくって最善の道を探すしかないだろう。残留派/離脱派の論争を聞いていると、それぞれもう決まり切った2つの未来の選択のように錯覚しそうになるが、本当はそんなことはない。未来は、大きな困難を伴いながらも、これから作っていくものだ。

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先日、テート・モダンと呼ばれるロンドン最大の現代美術館の新館がオープンした(ちなみに、オープニングイベントはユニクロが協賛している)。
http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-modern/special-event/new-tate-modern-opening-weekend
その、オープニングイベントの中で、テート・モダンをモチーフにした現代音楽を、地元の合唱団員500人がパフォーマンスする、というイベントがあった。そして、その中に、The Future (未来)という曲があった。

The Future:
It's not what we know, It's what, we think it will be
(拙訳)未来:それは私たちが知っていることではない。それは、私たちがそうなるであろう、と思うことだ。

作曲者によると、この曲は、ひどい目にあった自分の大切な人に向かって、優しく語り掛ける曲、
とのことだ。日本には、「これからリーマンショック級の事態が起きうる」、と予言した人がいたとかいないとか話題になっているようだが、この作曲者は別にそういう予言者とかではないと思う。

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(たぶん続く)

長い一日を終えて


長い一日が終わろうとしている(むしろ記事を書いているうちに日付が変わってしまった)。いつもは、夜更かし朝寝坊が常の夜型人間だが、今日ばかりは朝の6時過ぎに起きた。そして、目の前で起きていることに衝撃を受けて、眠気は一瞬でさめた。ポンド円は寝る時に見たレートから20円ほど下がっていたし、離脱派の勝利はもう動かないものになっていた。

「外国人」としてこの国に住んでいる以上、そしてEUからの移民に対する反感が大きな影響を与えてた結果である以上、この結果はもちろん残念だ。それに、英国や世界の政治経済が抱え込む途方の無い不透明性・リスクの大きさにも立ちすくむばかりだ。

これまで、残留派・離脱派の間で虚実入り混じった応酬、すさまじい誹謗中傷合戦が繰り広げられてきたのは事実だが、一方で離脱という答えは3000万人を超える英国の投票者が示した意思だ。今後、どれだけ離脱による悪影響が広がるのか、一方で離脱派が主張するようなメリットがどれだけ生まれるのか、またカウンターパートであるEU諸国がいかに状況を好転できるかは、英国とEUとの今後の建設的な議論・交渉にかかっている。10月までに退陣するキャメロン首相を継ぐ人物がだれなのかは、現時点では混沌としている。ただ、離脱派のリーダーにして有力後継首相候補であるボリス・ジョンソン前ロンドン市長に贈る言葉は、やはり以下のようなものだろう。



(フランス紙リベラシオン。写真中の人物がボリス・ジョンソン氏)

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これは日本のメディアでも報道されていると思うが、残留派は、「都市部」・「若者」・「高学歴・高収入」なほど割合が高い。イギリス、特にロンドンの大学はEU出身の教員や留学生が圧倒的に多い(一番多いのは中国人のことも多いが…)。当然、彼らEU出身の人々は(投票権がないとはいえ)残留派だし、そういうコミュニティに所属している人間も自然と残留派が主流となる(自分自身、今度イタリア人の同級生に会う時に、何と声をかけていいのかわからない)。だから、都市部で大学が多く、高学歴・高収入層が多いロンドンを筆頭とした都市部は残留派が勝利する結果となる。

ただ、なぜこういった属性の人たちが残留派となるのか。若者は、生まれたときからEUに加盟しているイギリスしか知らないし、実際にEU出身の人々と交流する機会が多いからだろう。一方で、都市部・高学歴・高収入層が残留派になびくのは、彼らがEU加盟による最大の受益者だからだ。その対極にいるのが、地方でいわゆるブルーカラーの職についていて(過去形かもしれない)英国外から来た人との接触が少ない人々、典型的な離脱派像だ。

今回の結果を、「地方の叛乱」と表現した記事があった。直接は書いていないが、地方の低所得・低学歴層が、経済的合理性を無視して、排他的な感情から非合理的な判断をした、とのニュアンスが伝わってくる。もちろん、こうした動きをポピュリズムという言葉でくくる言説は山ほどある。これは一面としては正しい表現なのだろう。どう控えめに言っても、今日、イギリスは国全体としてみれば、確実に分の悪い(しかもかなり悪い)判断をした。ただ、民主主義体制の中で票数としては多数を占める層を、上で挙げたような、ある意味で非常に失礼な表現でくくってきたインテリ層の言動が敗因となった可能性を考えていかなければいけないだろう。

同世代の、特に大学関連の友人知人はほぼ全員が残留派であるため、SNSのタイムラインは非常に沈鬱かつ攻撃的な一日だった。そして、何よりも心をやさぐれさせたのは、EU出身の友人知人たちが、こぞって「離脱派くそくらえ」、「EU離脱した、イギリス死ね」といったような声をあげていたことだ。おそらく、イギリスのEU加盟における最大の受益者の一人である彼らが、あくまでも英国の国民が民主的に示した意思(それは少なくとも、選挙の投票数ベースでは、EU加盟によって自分は受益者になれなかったと「思っている」人の方が多いことを意味する)に対して、そのような汚い声を投げつけることには、なんともいえない違和感を覚える。
EU離脱は決まったが、別に断交するわけではない。新しい、首相のリーダーシップの下で建設的な英国とEUの新しい関係が結ばれるために、何ができるかを考えるべきだと思う。

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近所のバス停の落書き
今日は、酒でも飲まなきゃやってられない、ということで、近所の The Perseverance (忍耐)という名のパブに行ってきた。パブなのに、忍耐、という名前はどうなのかと思うが、これからのイギリスを形容するにはぴったりの名前だろう。
その帰り道で、上の写真のように、バス停に落書きされているのを見つけた。やや記憶が定かではないが、おそらく今日書かれたものだと思う。残留派が怒りに任せて、Remain(残留)、Unity(団結)と書き込んだのだろう。
ただ、一連の動きを見る限り Remain=Unityとなるほど、この世の中は単純ではない。グローバル化による社会・経済の統合は、一方で国内の格差を広げ国内社会をunityから程遠いものにしてしまっている。
このような矛盾は、「偏狭な考えを持つ離脱派」(や米国でいえばトランプ支持層)のせいなのかもしれないし、格差を緩和できない政治家のせいかもしれないし、長期停滞ともささやかれる今の世界経済が共通して抱える宿痾なのかもしれない。ただ、私個人としてはまだこの点には答えを持てないでいる。


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今日の朝8時過ぎ、残留派敗北を受けてキャメロン首相は会見を開き、10月の保守党大会までに退陣することを表明した。昨夜、「投票結果がどうであれ、首相続投すべし」という嘆願書が80人程度の国会議員から出されていたにもかかわらず、だ(しかも、ボリス・ジョンソンも名前を連ねていたそうだ)。潔い進退表明だったといえる。
ただ、キャメロン首相はあと数ヶ月は首相の座にとどまる。金融市場に破局的な影響を与えないため、これだけ大きく割れてしまった社会に応急処置を与えるため、そして後継首相選びがもめて時間がかかるだろう、といった名分はあるだろうが、日本の感覚からすれば長らく居残るものだな、と思う(リオ五輪まで、と粘り腰だった某知事も、追い込まれてからは早かったこともあり、なおさらそう思う)。少なくとも最低限の尻拭いをする覚悟が政治家にあり、それを許容する度量が議会と国民にあることには、彼我の差を感じずにはいられない。

今朝のキャメロン首相のスピーチの中で、印象に残ったのは、彼らしい朴訥とした語り口で発した次の言葉だった。

I fought this campaign in the only way I know how, which is to say directly and passionately what I think and feel - head, heart and soul.
(拙訳:私は、今回の選挙戦を、自分が出来る唯一のやり方で戦った。私の頭、心、そして魂で何を感じ考えたかを、直接にそして情熱的に語る、という方法だ。)

確かに、キャメロン首相は、自身が表現するように全力で選挙戦を戦い抜いたと思うし、引き際も信念が通ったものだったと思う。少なくとも、選挙結果が明らかになってから、コービン党首の不信任動議を出す労働党や、昨日の夜は、負けたかも、と弱気になっておきながら、結果が出てから「今日が独立記念日だ―」と浮かれているUKIP(英国独立党)のファラージュ党首よりは、よほど筋を通した。

ただ、キャメロン首相への評価は、離脱後の英国がたどる運命とともに歴史が決めることになるだろう。離脱はないだろうと高をくくって、賭け金を引き上げてEUを揺さぶろうとしたのは、他でもないキャメロン首相だったのだから。この点、日経新聞の春秋で、一緒にするつもりはないが、と前置きされながらも、「重大な問題はしばしば国民投票にかけられ」たのが、ナチスドイツだったと論評されているのが印象的だ。民主主義である以上、国民投票はある意味で最高の意思決定手段なのだろうが、安易にこの手法に頼るのは政治家としてかなりリスキーな行為であることが見せつけられたのが今回の出来事だろう。日本も参院選の結果次第では、憲法改正の国民投票が視野に入ってくる状況では、他人事とは言えない。





ところで、ツイッターでは、早速さまざまなネタ画像が出回っている。上は、かの有名な戦前の国際連盟から「我が代表堂々退場す」の新聞記事をもじったものだ。この、国際連盟からの日本脱退について、東大の加藤陽子教授が「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」の中で次のように書いている。

強硬に見せておいて相手が妥協してくるのを待って、脱退せずにうまくやろうとしていた内田外相だったわけですが、…(中略)…除名や経済制裁を受けるよりは、先に自ら連盟を脱退してしまえ、このような考えの連鎖で、日本の態度は決定されたのです。(「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」 P.312) 
戦前の日本と今のイギリスを重ねるのは、余りにも乱暴だが、キャメロン首相の歴史的評価も、いずれこのような文脈で語られる日が来るのかもしれない。

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長くなったので、続きはまた

2016年6月23日木曜日

いよいよ


ついに、英国のEU離脱を問う国民投票の日となった。長い間、論戦が繰り広げられてきて、ついには悲劇的な犠牲者まで出たが、いよいよ審判の時だ。
BBC News のツイッターアカウントは、夜の11時くらいになると、翌日の朝刊各紙の1面を網羅的にリツイートする。備忘録として、各紙の見出しをリストアップしておこうと思う(拙訳、意訳)。

・Thursday's Guardian(ガーディアン紙)
Last-ditch push to stay in Europe([残留派の]最後の試みは、EU残留へと導くだろう)

・Thursday's Times(タイムズ紙)
Final polls leave Britain’s future on a knife edge
(最終世論調査によると、英国の未来はまだ剣ヶ峰にある)

・Thursday's Daily Telegraph front page(デーリーテレグラフ紙一面)
The time has come(時は来た)

・Thursday's FT(フィナンシャルタイム紙):
Tension mounts in City ahead of historic vote on EU membership
(EUに関する歴史的な国民投票を前に、[金融街]シティの緊張が高まっている)

・Thursday's Independent digital(インデペンデント紙電子版)
The Day of Reckoning(審判の日)
※reckoningには、判断・審判するという意味のほかに、数字を集計する、という意味もあるらしい。非常にうまい言葉の使い方だと思う。

・Thursday's Daily Express(デーリーエクスプレス紙)
Your country needs you Vote Leave today(英国のためにEU離脱に投票する必要がある)

・Thursday's Daily Mail front page(デーリーメール紙一面)
Nailed: four big EU lies(EUの4つの大きなウソ)
 ※やや自信がないが、nailedは、悪事の現場を取り押さえる、という意味のスラングのようだ。

・Thursday's International NY Times(NYタイムズ国際版):
Leaving EU would upend nation, but not overnight
(EU離脱は英国を転覆させるだろう、ただそれは一夜にして起きるものではない)
※離脱派が、EU離脱後の諸々の手続を詰めていないため、長期間にわたって影響が出る、と続く

・Thursday's Sun front page(サン紙一面) 
Independence Day(独立記念日)

・Thursday's Daily Mirror(デーリーミラー紙)
Don't take a leap into the dark… vote REMAIN today
(暗闇に飛び込んではいけない。EU残留に投票せよ)

・Thursday's Daily Star(デーリースター紙)
YOUR country YOUR vote Grab your future by the ballots
(あなたの国、あなたの投票権、未来を投票によってつかみ取れ)

・Thursday's i front page(i紙一面)
On your marks. Get set. VOTE!
(位置について、用意、投票!)

・Thursday's City AM(シティ・AM紙)     
Decision Day (選択の日)

・Thursday's Metro front page(メトロ紙一面)
Britain Decides(英国の選択)


淡々としている新聞、最後まで扇情的な新聞、恐怖をあおる新聞と見事に個性が出ているのが見て取れるだろう。紙面構成・写真からも今のイギリスの雰囲気が伝わると思うので、以下の引用ツイートを眺めていただきたい。

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2016年6月9日木曜日

試される大地


こちらで地元の人と知り合いになると、「日本のどこ出身なんだい?」と聞かれることもある。とはいっても真面目に答えたところで、尋ねてきた本人が知っているのは、東京と京都くらい、ということが多くて、北海道といってもピンとこない人の方が多い。自分だって、こっちに来る前は。マンチェスターとかヨークが地図上のどこにあるかなんて絶対に答えられなかったし、まあそんなもんだろうと思っている。ただ、「聞いたことないなあ」といわれ続けるのも、やや物悲しいので、いつからか、「日本の北にある大きな島の、雪深い街の出身です」と答えることにしていた。

今日もたまたま最近知り合いになった人と雑談する機会があって、出身地を聞かれたんだけど、いつもとやや違った展開になった。

イギリス人:「日本のどこ出身なんだい?東京かい?」
私:「東京にも長く住んでたけど、出身は日本の北にある大きくて雪がたくさん降る島です」
イ:「あ、知ってるよ。北海道でしょ?」
私:「そうですよ。北海道、よくご存じですね。」
イ:「そりゃそうだよ。あの行方不明だった少年が無事見つかったところでしょ?クマにさらわれたんじゃないかって、心配していたんだよ。」
私:「…確かに、こっちでもたくさんニュースで取り上げられていてびっくりしました。北海道のクマは凶暴なんで危険なんですよね」

確かに、例の少年の話は、こちらではすごい話題になっていて、退院して「お父さんを許します」という所も含めて続報を続けているようだ。きっと、今日話したイギリス人も北海道のクマが凶暴なことも含めて、ニュースで聞いたのだろう。

BBC: Japanese missing boy Yamato Tanooka found alive in Hokkaido
http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-36441612


しかし、こんなところで北海道のクマの話になるとは思わなかった。思わず、ラーメンズの「住民の半分がクマ」というネタを思い出してしまい、続けて北の国からの五郎の声真似で「試される大地」というシーンも思い出してしまった。確かに、大和君にとっては見つかるまでは試される大地だっただろうし、色々と謝って回らなければいけないお父さんにとっては、今が試される大地だろう。

ともかく、今後は自己紹介をするときには、「ミラクルボーイ、ヤマトが生きて帰ってきた北海道の出身です。もし、遊びに来ることがあったらクマに気を付けてください」ということにしようと思う。

2016年6月7日火曜日

It's all Greek to me (チェコ旅行その1)


この前、ギリシャ人の指導教官とミーティングをしていて、その最中に先生に家族から電話がかかってきたので、ギリシャ語の会話を聞くことに。当然、何をしゃべってるかさっぱりわからなかったので、電話が終わった後に "It's all Greek to me! literally." とコメントしたところ、先生はちょっとにっこり。英語でジョークらしいジョークを言えたのは、これが初めてなので、多少は進歩を感じた瞬間だった。

この、"It's all Greek to me" は、ご存じの人も多いと思いますが、「ちんぷんかんぷんだよ」という英語の表現ですが、最初にこの表現を使い始めたイギリスの人の気持ちも分かる気がしたところ。と、書いたところで、ちょっと調べてみたら、この表現の由来はラテン語の直訳らしいですが、細かいことはきにしない。

で、この手の慣用表現は、多くの言語にあるらしく、twitterで面白い画像を見つけたので引用。


この図を見ると、いくつか興味深い点があって、一つは線をたどっていくとだいたい中国語になる、ということだろう。まあ、他の文字圏の人からしたら漢字は難しいわな。そして、日本語からは矢印が出ていない、つまり日本語には似たような表現がない、ということも興味深い。これは、日本人はだいたいどんな言語でもわかってしまうということなのか、逆に(特定のわからない言語が際立たないくらいに)外国語全般が苦手ということなのか…いろいろ興味は尽きない。


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先日の記事でもにおわした通り、妻がドイツでイギリスの在留カード(BRP)を財布ごとすられてしまったので、再入国ビザが発行されるまで、待機場所のチェコはプラハまで行ってきた。観光スポットの話は、次回以降に譲るとして、今回はチェコ語の話でも。

滞在中に、最低限旅行用のチェコ語の表現を調べようとネットを見ていたところ、実はチェコ語は日本人にとって習得が相当難しい外国語、との認識なようだ。

何が難しいのかというと、まず文法が難しい。英語なら、主格・所有格・目的格(I, my, meってやつですね)位ですが、チェコ語は、主格・属格・与格・対格・呼格・前置格・造格の7種類あるらしい(当然どう使い分けるのかは全く分からない)。あと、名詞の性別も、英語にはないしフランス語なら男性・女性だけだけど、チェコ語には男性活動体・同不活動体・女性・中性の4種類あるらしい。男性名詞を活動するかしないかで分けるというのは果たしてどういう意図なのか…

そして、発音も難しいらしい。日本語のように必ず音節に母音が含まれる言葉をしゃべっていると、子音ばっかり続く単語の発音はうまくできない。英語にしてみても、"crisps" の語尾をネイティブっぽく発音するのは難しい。そこへ来てチェコ語はさらに凶悪である。wikipediaからの引用をご覧いただきたい。

チェコ語の音韻論も多くの外国語話者にとって非常に難しいものであろう。例えば、zmrzl, ztvrdl, scvrnkl, čtvrthrstのように母音を持たないように見える語もある。しかし、子音である l や r が自鳴音として機能し、母音の役割を担っているのである。
「子音である l や r が自鳴音として機能し…」のくだりは、もはや意味が分からない。これは、妻から教えてもらったけど、外務省のチェコ語専門の人は、"zmrzlina"(ズムルズリナ):アイスクリーム、という単語がお店で通じたときに、上達を感じた、というエピソードを紹介していた。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/staff/challenge/int06.html

そもそも、一つの子音そのものの発音が難しい者もあるらしい。中でも、"ř"という子音は、wikipediaによれば、世界一発音が難しい子音といわれることもあるようだ。どれくらい難しいかというと、チェコ人の子供も発音できない子がいるらしく、特訓のクラスがある位だそうだ。
ちなみに、どういう音かというと、音楽家「ドボルジャーク」の「ルジャ」のところにあたる子音で、実際には「る」の音と「じゃ」を同時に発音するような感じらしい(間違っているかもしれないし、そもそも当然自分では発音できない)。

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チェコ語がこんなに複雑な文法・発音となっている背景には、チェコの悲しい歴史的背景があるようだ。チェコは長らく神聖ローマ帝国の支配下に置かれていた。つまり、基本的にはチェコ人は長らくドイツ人の支配下に置かれていて、特に三十年戦争以降数世紀にわたって、チェコ語の使用を禁止する政策がとられていたようだ。このような、ドイツ人の抑圧的な政策が、チェコ語を三十年戦争当時の中世的な言語のまま、いわば冷凍保存する形になった結果が、今の他の欧州言語に比べて難しいチェコ語につながっているようだ。

言葉は使っていると、「不便」なところはそぎ落とされていく。日本語の「ら抜き言葉」にしてもそうだし、英語でも、最近では舌を噛んで発音する "th" の発音を、舌をかまずに発音する若者が増えているらしい(と英語の発音のクラスの先生がぼやいていた。うちの息子たちも発音が乱れてるのよ…と)。
現代の感覚では、言語や文化の抑圧は、当然絶対に許されないことだが、チェコ語の豊かな言語的性格とその背景を考えると、歴史と文化のあり方はかくも因果なものだ、と思わずにはいられない。



2016年6月3日金曜日

BRP盗難・紛失時の対応方法


BRPとは、Biometric Residence Permitと呼ばれる、イギリスの在留許可証カードのことで、イギリスに長期滞在する外国人が所持しなければいけないカードのことです。
このカードには、ICチップが埋め込まれていて、Biometric という名前の通り、中に指紋や顔写真などのデータが入っています。2015年より、新規でイギリスの在留を開始する人は、日本でパスポートの貼られるビザ(紙製のもの)は最初の入国1回だけ有効なもので、入国後すぐ、指定された郵便局へBRPカードを受け取りに行く必要があります。ともかく、イギリスに住む外国人がこのカードをなくすと、(その後正式な手続きを踏まなければ)不法滞在になってしまう重要な代物です。

この大事なBRPカードですが、紛失してしまったり盗難にあってしまったりすることもあるでしょう。実際、最近家族がBRPの盗難に(しかもイギリス国外で)あったため、備忘録的に対応方法をまとめたいと思います。
当事者の臨場感あふれるレポートはこちらから

不幸にも似たような状況にあった人の助けになれば不幸中の幸いではありますが、①盗難等の場合は、何よりもまず警察に通報すること、②ビザ申請の手順やルールは、仕組みが頻繁に変わるので、自身で最新の情報を入手すること、を心がけてください。

さて、BRP盗難・紛失時の対応方法ですが、無くなった場所がイギリス国内か国外かで大きく異なります。

1.イギリス国内で盗難・紛失にあった場合
・警察等に通報の上、BRPカードの再発行手続きを、「3か月以内に」行う。

2.イギリス国外で盗難・紛失にあった場合
・警察棟に通報の上、イギリス再入国のための一時ビザの発給を、国外最寄りの英国ビザセンターで受ける
・再入国後、「1か月以内に」、BRPカードの再発行手続きを行う

※手続きを決められた期間の間に行わない場合は、数十万円単位の罰金や、ビザの更新拒否、最悪の場合は国外退去といった処分を受ける可能性があります。

イギリス国外で失くした場合は、イギリスに戻るための一時ビザの取得工程が加わりますが、イギリス帰国後の作業は、(申請までの期間が1か月と短いことを除けば)国内でなくなった場合と同様です。このため、以下では、イギリス国外でなくなった場合の流れを順に追っていきます。

なお、今回いろいろと調べるのに、一番役に立ったのは Warwick大学のページでした(どことは言いませんが、他の大学では古い情報が掲載されていて余計混乱したところもありました笑)。最終的には、政府のウェブサイト記載の最新の手続きに従う必要がありますが、まずWarwick大のページに目を通すことをお勧めします。
http://www2.warwick.ac.uk/study/international/immigration/current/lostpassportandvisas/

1.旅行前の準備

イギリス国外でBRPをなくした場合は、一時帰国ビザを国外で申請する必要がありますが、この申請の際には、日本で最初にイギリスのビザを取得した時に使った書類一式のほとんどが必要になる、と思っておいた方がいいです。このため、以下の書類の画像データや、各種番号情報をクラウド等に保存しておくことを推奨します。

  1. BRPカードの画像と、BRPカードの番号(画像が望ましいですが、BRPカード番号がわかれば、再発行手続きが早まると思われます)
  2. 過去10年程度のすべてのパスポートの顔写真ページの画像(日本でビザを申請した時と同様、過去10年分のパスポート情報と渡航歴を、一時ビザ申請の際に改めて入力する必要があります。)
  3. 在学証明書(学生の場合)、勤務先からの所属証明書(駐在の場合)
  4. イギリス国内の住所を確認できる書類2、3点(Council tax の支払い通知、電気ガス水道の支払い通知、賃貸物件の契約書、銀行の取引レポートなどが認められています。学生であれば、在学証明書でもよいと思います)
  5. (参考)旅行保険の証書(BRPとは直接関係ないですが、ヨーロッパの一部の国では旅行者に旅行保険の加入を義務付けています)


2.盗難・紛失にあったらすぐ行うこと


特に盗難の場合は、すぐに現地の警察に通報することです。一通りの事情聴取の後、警察からレポートが渡されるかと思いますが、このレポートは後々の申請手続きに必要になります。紛失の場合も、現地の警察に紛失届を出して、レポートをもらったうえで、ビザ申請を行う必要があります。非英語圏では、英語のレポートを作成してもらうのは難しいと思いますが、「盗難届」や「すり」などの、キーワードの部分だけでも、手書きで英語のメモをしてもらうように頼むと確実かと思います。

警察の対応や、BRP以外にクレジットカード等も被害にあった場合は、それらの対応を行ったうえで、イギリスのビザ当局に紛失届を提出する必要があります。下記のリンクから、指示に従って氏名・生年月日等を報告する必要があります。
https://www.gov.uk/biometric-residence-permits/lost-stolen-damaged

ちなみに、日本大使館や英国大使館に行っても、ビザ申請関係のことには関知しないとのことで、あまり意味がありません。もちろん、パスポートも合わせて紛失してしまったり、財布ごと盗難にあって無一文で身動きが取れなくなってしまった場合は、日本大使館で必要な支援を受ける必要があるでしょう。

3.ビザ申請を行う場所について

上記の初期対応が一通りの終わったところで、再入国用の一時ビザの申請手続きに移ります。ただし、申請から実際にビザを入手するまでには、最速でも10日程度時間がかかります(今回のケースでは、金曜の午後に盗難、同じ日のうちにビザ面接予約まで行って、翌水曜に面接、最終的にビザが手に入ったのはさらに1週間後の水曜でした)。

その後の旅行の行程や、同行者の事情、滞在地の治安などを踏まえて、①被害にあった都市にとどまった方がよいか、②近隣の大都市に移動した方がよいか、③思い切って日本に帰国した方がよいか、などを慎重に検討したうえで、ビザセンターの面接予約に進んでください。

4.Replacement BRP visa の申請

再入国用のビザは、"replacement BRP visa" と呼ばれるもので、パスポートに張り付けられる紙製のビザ、になります。なお、イギリス再入国後に再発行してもらうBRPカードは、"replacement BRP"と呼ばれており、"visa" がつくかつかないかの違いがある訳ですが、非常に紛らわしいので、政府のページを読む際には注意しながら読んでください。

Replacement BRP visa は、下記のサイトから申請を行います。基本的には、日本で最初にビザを申請する際のページと同じです。
https://www.visa4uk.fco.gov.uk/home/welcome

申請するビザの種類などは、次のように指定します。
Reason for visit: Other
Visa type: Others
Visa Sub type: Replacement Biometric Residence Permit


必要情報を入力すると、次にビザセンターの面接予約に移ります。面接を行う国を決めてしまうと、後から変更ができないらしいので、上にもある通り、その後の予定をしっかりと考えた上で面接場所を指定してください。

面接場所が決まったら、面接センターのページに移って、各種の情報登録やプレミアムサービスの購入などを必要に応じて行います。欧州の多くの国では、ビザセンターの業務は、TLS contact と呼ばれる業者に委託されているようです(ちなみに、日本の業務はVFS globalという別の業者が行っています)。
https://uk.tlscontact.com/

プレミアムサービスには、プライオリティ・サービスというものがあって、優先的に審査してもらえるサービスとなります。これをつけないと、ビザ発給まで面接から1~2週間ですが、つけた場合は通常5営業日以内になります。サービス料の出費は痛いですが、延長滞在費なども考えると、プライオリティ・サービスはつけること一択かと思います。

ちなみに、パリやベルリンのような大都市はわかりませんが、小さな都市ではビザセンターも小さく、東京のセンターのように、ビザ発給後、再びビザセンターに受け取りに行く、ということはできないようです。ビザ面接時に、パスポートを返却する住所を指定して、そこに配達業者が届ける、という形になります。頼れる知人がいるようなケースを除いて、ホテルの住所を指定する必要があると思いますので、この辺りも事前に見通しておいてください。

5.イギリス帰国後(またはイギリス国内で失くした場合)

※今回の自身のケースには該当しないので詳しくは調べていませんが、BRPの期間が残りわずか(1~2ヶ月)の場合は対応方法が異なるらしいので、注意が必要です。

イギリス帰国後は、BRPカードの再発行申請を行う必要があります。イギリス国外のケースとは違って、下記のリンクにある30ページ近くに及ぶ申請書類を記入したうえで、郵送、またはプレミアムサービスセンターの面接を予約する形になります。

https://www.gov.uk/government/publications/application-for-a-replacement-biometric-residence-permit-brprc

ただ、当然のことながらこの申請書類は作成が大変です。注意書きも不親切なところが多いです。そこで、役に立ったのが、Warwick大学のページでした。申請料金等、一部情報の古い部分がありますが、記入例を示してくれているので、留学生に限らずかなり役立つと思います。

http://www2.warwick.ac.uk/study/international/immigration/current/lostpassportandvisas/brp_rc__form_sample_jan_2016_final.pdf


郵送の場合は、上記書類を作成の上、申請書類に示された宛先に郵送します。その後のフローは、私はよく把握していませんが、どうもいろいろと呼んでいると、郵便局で指紋や写真を撮って送るように、という指示が後ほど来るようです。申請からBRPカードの入手までは、8~10週間程度かかるそうです。

一方で、プレミアム・サービス・センターを予約すると、その場で書類を確認しながら面接し、指紋や顔写真もその場でとり、カードの入手までかかる時間も2週間程度とのことです。ただ、問題なのはこのセンターの使用量はとても高い(500ポンド!)、イギリス全土に7か所しかなくて、どうやらロンドン近郊のセンターは日本人は使えないらしいこと、です。500ポンドの追加料金を払って、更に(ロンドン在住の場合、近場では)バーミンガムやリヴァプール、カーディフまで行く必要がありますが、再発行までの間は、別の国外旅行には行けないので、背に腹は代えられない場合も多いと思います。

6.かかる費用と時間のまとめ


(再入国ビザ:Replacement BRP visa)

・申請手数料:現地通貨で189ポンド相当+一部センターではセンター使用料が50ポンド相当程度
・プレミアムサービス料:EU諸国の場合は、200ユーロ程度
・プレミアムサービス利用時で、面接から5営業日以内、利用しない場合は1~2週間程度

(BRPカードの再発行:Replacement BRP)
・申請手数料:56ポンド
・プレミアムセンター利用料:500ポンド
・郵送の場合、郵便局での指紋採取等の手数料:40ポンドくらい?
・警察レポートの翻訳料(非英語圏の場合)
 2ページのレポート、ドイツ語→英語で80£程度が相場のようです
・郵送の場合、8~10週間程度。プレミアムセンターの場合、2週間程度