こちらに来る前、送別会などで会う人たちから受けた質問で多かったのは、「何しに行くの?」と「何年くらい行くの?」だったが、それと同じくらいに多かった質問(同情?)は「イギリスって飯がまずいんでしょ?」というものだった。それくらいに「イギリス=飯マズ」という印象は定着しているといえる。
個人的には、耳にタコができるほどこの質問を受けてから、期待値を相当下げてこちらに来たので、
何はともあれ、この古典的な「イギリスあるある」であるが、ここ数日 Twitter 上でまた盛り上がっている。おそらく、発信源は次のまとめで取り上げられている tweet なのだと思う。曰く、イギリスに留学した姉が、食べるものすべてがまずくて、オレンジを食べて飢えをしのいでいる、とのこと。
***
「全ての食べ物がまずい」「栄養失調寸前」 英国へ留学した姉から届いたLINEが切実で泣きそう http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1602/26/news125.html
***
まあ、この記事だけで終われば、よくある話海外こぼれ話で終わるのだが、 twitter の別の場所では、それなりに深刻な論争に発展していたようだ。こちらの論争の発端は、社会学者の北田先生の次の tweet のようだ。
大英帝国は昔さんざんいい思いをしたのだから、お料理話で世界にお笑いをまき散らすぐらいの義務はあると思うねんな。— 北田暁大 (@a_kitada) 2016年2月25日
多国籍飲み会でイギリス料理ネタ、イギリス人含めて鉄板で盛り上がるからな。
これに対して、 昨年 LSE で PhD を取得して帰国された川口先生が反論をしていた。
「英国メシマズ」「英国料理=フィッシュアンドチップス」ステレオタイプあかんと思った具体的なきっかけはパフュームが初ロンドン公演した時のMCで「料理意外とまずくなかった」、客をフィッシュとチップスにわけてコールやった時に0.1秒会場に流れた冷たい空気。ああこれは失礼すぎると思った。— Kohei Kawaguchi (@mixingale) 2016年2月26日
海外で「日本食まずい」って言われる経験は「周りの多数派が価値観を共有しない中一人で対抗しなければならない」不快感、つまりマイノリティの不快感の経験101なんですよ。それに「なんで腹立つの?」ってのは白人黒人みたいな差別構造を与えられなきゃマイノリティ問題考えられません宣言ですよ。— Kohei Kawaguchi (@mixingale) 2016年2月26日
ステレオタイプに基づいた民族ジョークはネタにしやすいのは間違いないので、飲み会とかそういった場でのおしゃべりにはもってこいだろう(自分だってそういう場ではすることがある)。それに、こういうステレオタイプなジョークは英語圏の人々も大好きだし、もっとえげつないものもある(英語圏の金髪とポーランド人を馬鹿にするジョークははっきり言って悪質で不快ですらある)。英国は世界じゃ強キャラだけど日本語コミュニティではマイノリティでしょう。英国を代表するものがほとんどいないところで「英国メシマズ」ステレオタイプをネタに盛り上がるのが失礼じゃないわけないでしょ。英国行って英国人にメシマズを説得できるならいいよ。その意見には普遍性の片鱗がある。— Kohei Kawaguchi (@mixingale) 2016年2月26日
こういったジョークの発話者が、裏にある差別意識のようなものに自覚的になった上で、仲間内の冗談でこういった話をする分にはまあいいのかもしれない。だが問題なのは、「イギリス飯マズ」的な何気ない話題の時には、無自覚にそういう話をしてしまいがちなことなのだろう。Perfume だって、悪気なく、何気なく話題に選んだだけに違いない。あんなに美しい演奏をできる人達に悪い人がいるわけがないから。
とつらつら書いていたら、王様林先生も同様の意見をつぶやいておられるのを見つけた。
何かを腐すことで話題を共有するというのは確かにコミュニケーションを円滑ならしめる手段ではあるのだが,これは唯一のものを除いてアウトだと思った方が良いと思われる.唯一の例外は何かというと天気.— Takashi Hayashi (@tkshhysh) 2016年2月26日
唯一、腐して問題のない話題なのは、やはり「天気」ということだが、「天気」を一番腐しやすい国もイギリスのような気がする。なので、イギリスを腐したいなら、これからは料理よりも天気のことを話した方が安全なのだろう(なお、出国前に「飯まずいんでしょ?」の次に多く受けた同情は、「いつもどんよりしてるんでしょ?」だったことを、この記事を書いているときに思い出した)。
0 件のコメント:
コメントを投稿